通勤手当を廃止せよ --- 牧野 雄一郎

アゴラ

Pakutasoより(編集部)

世界一長い日本の通勤時間

様々な国際調査があり本当の平均値は数多くの情報があるが、国土交通省の2012年資料によれば東京都市圏の通勤時間は「片道80分」と、ロンドン、ニューヨーク、パリといった国際都市と比較して群を抜いて高い。ロンドン、ニューヨーク、パリは平均して40分と、東京圏のほぼ半分だ。これを往復で換算すれば、東京圏に通う人は1日に40分、年間で160時間も多くの通勤時間を掛けていることになる。

出典:2012年国土交通省資料 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/syutokou/pdf/19.pdf

東京を中心とする関東の経済圏は世界稀に見る大規模都市圏だ。東京、神奈川、千葉、埼玉の主要4都県で人口は4000万人に上る。東京中心部における人口密度の昼夜比率は6.7倍という世界に類を見ない数値だ。

出典:2012年国土交通省資料 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/syutokou/pdf/19.pdf

先日アゴラにて宮寺氏が書いた田園都市線に代表される壮絶な通勤風景は外国人の日本的サラリーマンのシンボルとなってしまっている。上海では香港在住の写真家 マイケル・ウルフ氏が「東京コンプレッション」と題して過酷な東京の通勤ラッシュを写真展覧会に出展した。


 より引用

現実的に東京で都心に住むのは家賃面で厳しいことは明確だが、なぜここまで長距離・長時間通勤が一般的になったのだろうか。それは「通勤手当」の存在である。

年収をゆがめる通勤手当

日本企業には通勤手当というのが給与体系の一部として明記されている。運用方法は各企業によって様々だが、一般的には自宅から職場まで公共交通機関(または自家用車)を使って掛かる現実的な費用の大半を会社が給与に上乗せして支給している。極端な例では会社都合によって転勤した場合、新幹線代まで出しているケースもある。(私が以前務めていた企業はそうだった。)そのような通勤手当は年間100万円に上ることもある。

もう少し現実的な例で言うと職場が大手町、自宅が横須賀なら、最も安い手段でも片道90分、1000円の通勤時間と交通費がかかる。年間240日の労働としても往復2000円x240日=48万円もの通勤費が必要になる。若干は定期券割引があるものの年収が480万円とすれば、住居が遠いというだけの理由で約10%も給与に差が付くということだ。

同一労働・同一賃金の原則に反する

もちろん都心に住めば短い通勤時間の代わりに高い家賃を負担する。それは「本人の勝手」という理論もあるだろう。しかし仮に都心に住むのが本人の勝手だとしたら、通勤に往復3時間掛ける社員も「本人の勝手」だ。

さらに改めて考えると、政府が目指している「同一労働同一賃金」の原則とすれば、居宅地域や通勤手段によって給与が異なるのは明らかにおかしい。海外ではこのような通勤手当の習慣はなく、この制度がいたずらに日本人の通勤時間を長引かせている遠因とも言える。

昨今で長時間残業が問題となっているが、そもそも長時間残業の問題は心身の健康損失に加えて、主に男性が家事を手伝うことが難しく女性の就労機会増加の足かせとなっていることでもあろう。仮に往復で1時間の通勤時間削減ができれば、言うまでも無く月間20時間の残業削減と同じだ。また、年間で240時間が生み出せることにもなる。

通勤時間が無駄になるかどうかは本人の心がけ次第だが、実際に電車で見る風景はスマホでゲームをやっている人が大半である。私は数年前にサラリーマンを辞めて自宅を事務所としたが、半年ほどは通勤が無くなったことによるストレス減少効果は計り知れず、毎日感動していた。

また、私は中小企業の経営コンサルティングをしているが、大手企業は都心にオフィスを構えながら、遠距離通勤者にも通勤手当を上乗せするのは企業規模の大小による人材獲得にも大きな影響を与えていると考えている。そのような通勤手当が廃止され、労働者が地元で働くという選択肢を増やすことができれば労働環境の不均衡や大企業というガラスの牢屋に閉じ込められるサラリーマンを少しでも減らすことができるのではなかろうか。

牧野 雄一郎
原価管理コンサルタント 中小企業診断士 事業再生アドバイザー
アゴラ出版道場一期生

大手精密機器メーカーにて原価管理、調達部門を通じて、コストダウンと事業構造改革に従事。独立後は中小企業の原価管理、事業再生のコンサルタントを行っている。

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