【映画評】キセキ あの日のソビト

渡 まち子

提供:東映

厳格な父の反対を押し切って音楽の道を選び、家を飛び出した兄のジン。一方、弟のヒデは父の期待に応え歯科大を目指して勉強していた。ジンのバンドのメジャーデビューが決まるが、商業主義的な音楽業界に失望し、ついに挫折してしまう。そんな時、ヒデと仲間たちの音楽を聞き、その才能を見抜いたジンは、弟ヒデに音楽の夢を託すことを決める。だが歯科医を目指しながら音楽もやりたいということを父に言い出せない。兄弟は、前代未聞の顔出しなしのCDデビューを思いつく…。

異色の4人組音楽グループGReeeeNとその代表曲の誕生秘話を描く「キセキ あの日のソビト」。名曲「キセキ」は誰もが一度は耳にしたことがある大ヒット曲。前向きで説得力のある歌詞と親しみやすいメロディーで多くの人々に愛されている名曲だ。ファンにはおなじみの誕生秘話なのだろうが、私などは、曲は知っていても、どれもが初めて知るエピソードばかりで、なかなか楽しめた。兄弟を演じるのは松坂桃李と菅田将暉という旬の若手人気俳優たちで、二人の演技が繊細で、スッと物語に入り込める。本作はこの二人ありきの作品といっても過言ではない。

提供:東映

それにしても兄弟の父親は厳しい。イマドキこんなにも恐ろしい父親がいるだろうか?と首をかしげるが、その分、子どもたちをやさしく見守る母親の天然ぶりがほほえましく、いいバランスになっている。父親に、音楽をやるという決意を告げるシーンは緊張感があり、兄への、あるいは弟への複雑な感情がからむ兄弟げんかのシーンもまたリアルだった。ただ、派手なクライマックスが用意されているわけではないので、映画としては少し盛り上がりに欠ける印象も。それでもすべてを乗り越えて音楽の道へと進むと決めた彼らの凛とした表情が映り、名曲「キセキ」が流れる時、改めて、この曲の素晴らしさが伝わってくる。
【60点】
(原題「キセキ あの日のソビト」)
(日本/兼重淳監督/松坂桃李、菅田将暉、忽那汐里、他)
(さわやか度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年1月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。