トランプの入国制限策。誤解も幻想も抱くべきではない

篠田 英朗

入国制限の大統領令に署名するトランプ氏(ホワイトハウスFacebookより:編集部)

トランプ大統領による中東7カ国からの入国制限措置が、国内外で大きな波紋を広げている。トランプ大統領の偏狭さが批判の対象になっているわけだが、政権発足初期の混乱が垣間見られることは確かだろう。

トランプ大統領は、オバマ政権との違いを鮮明にするためのパフォーマンスをとっているにもかかわらず、批判されると、「オバマ政権においても同じような措置がとられたことがある」といった奇妙な言い訳をしているのも、あまり見栄えの良いものではない。

ただし今回の入国許可停止の対象となった7カ国が、すでにオバマ政権時代に入国制限対象になっていたのは事実である。私自身、昨年3月に、米国の学会に行こうとした際、スーダンやイランへの渡航歴が引っかかり、成田空港で搭乗拒否された。

ESTA申請はこれまでほぼ自動的だったので、2月に議会が警戒対象地域をスーダンにまで広げていたことを過小評価して、油断していたのだった。その後、米国大使館で3時間並んでビザ申請をする羽目になった。

ちなみに私には南スーダンなどの他の紛争関係諸国への渡航歴があるが、そちらのほうは引っかからない。当然だが、トランプの政策は、日本の外務省の渡航制限などを参考にしたものではない。7カ国の選定は、アメリカ人が「反アメリカ分子が多数存在する国家」という認定をした国々だということである。

今回、トランプ政権は、入国禁止という思い切った政策をとったが、対象国の選定等の制限の方法を全く検討し直した様子がない。いきなり強権的な手法をとったということにすぎない。確かに、さらなる措置を取る前の暫定的措置だという説明もなされているが、拙速なパフォーマンスだという印象はぬぐえない。しかしいずれにせよ、この種の政策は続いていきそうだ。

今回のトランプ政権の措置で、われわれは何を感じるべきだろうか?
アメリカは、長期にわたって「対テロ戦争」を継続している交戦国だ、ということだ。
戦争をしているからとって、ほめたり、同情したりすべきだということではない。

しかし、状況を見間違えて、トランプという特定の個人の狂気に全ての問題を還元させようとするのも、妥当な見方とは言えないだろう。いささかの誤解や幻想も持つべきではない。アメリカは、戦争中の国家なのである。


編集部より:このブログは篠田英朗・東京外国語大学教授の公式ブログ『「平和構築」を専門にする国際政治学者』2017年2月1日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた篠田氏に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。