AI(人工知能)でホワイトカラーの「知的」労働者が失業する

内藤 忍

日本経済新聞によれば、野村証券は人工知能(AI)を使ってAIビジネス関連企業を選別する新しい株価指数「野村AIビジネス70」を開発しました。AIがAIを選ぶと言うことで、全く新しい指数が生まれる可能性があります。過去のデータによる分析によれば、この指数は2002年11月からの試算で東証株価指数(TOPIX)を50%超上回る実績を出しており、今後の運用実績が期待されます(グラフも同紙から)。

このようなAIによる運用が広がっていくと、個人投資家には大きなメリットがあります。それはコストです。アクティブ型の投資信託は、信託報酬と呼ばれる運用コストが高くなる傾向がありますが、これはファンドマネージャーの人件費が要因です。ファンドマネージャーは、給与水準も高くジュニアクラスでも1000万円以上、シニアになれば数千万円の年収も珍しくありません。AI導入でファンドマネージャーの人件費を大幅に節約することができるのです。

逆に、資産運用業界内の雇用という点からは、ファンドマネージャーの失業問題が出てきます。国内の資産運用会社は、規模の拡大を目的とした大合併時代に突入し、業界全体の仕事の数が減っています。さらに、AIによって仕事が減ることになれば、さらに多くの人が職を失う産業になってしまうのです。

以前、私もファンドマネージャーの仕事をしていましたが、投資銘柄の分析やポートフォリオの作成など多くの仕事は、AIによって代替可能だと思います。人間にしかできない仕事は、一部の優秀なマネージャーの仕事のさらにほんの一部分に過ぎないのです。だから現在のファンドマネージャーの数が大幅に減っても、不思議はないと思います。むしろ、人間が銘柄選択することによるマイナス面が少なくなり、ファンドマネージャーが減って運用成績はさらに向上するかもしれません。

AIの恐ろしさは、今まで人間にしかできない知的な労働だと思われていたホワイトカラー専門職の仕事が、機械によって簡単に置き換えられてしまうことがわかってしまったことです。例えば、弁護士、会計士、ファンドマネージャーといった高度な専門職の仕事の大部分は、実は単に複雑で難しそうに見えていただけだったという訳です。AIには知的労働者と呼ばれて高給で仕事をしてきた人の中から、人間にしかできない仕事をしている「本物」を選抜し、知的に見えていただけの「フェイク」を排除するのです。

機械化というとこれまではブルーカラーが合理化の対象になってきましたが、これからはホワイトカラーも機械との仕事の奪い合いが始まると言うことです。AIの進化は、人間がやるべき仕事とは何かについて深い問いかけをしてくれます。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。