「問題は英国ではない、EUなのだ」

ソ連崩壊やリーマンショック、アラブの春、ユーロ危機、そして今回の英国EU離脱(ブレグジット)を予言した人口学者のエマニュエル・トッドの著書「問題は英国ではない、EUなのだ」を読んで今後のポンド/円がどうなっていくかのヒントを得たいと思います。

(1)なぜ英国はEUを離脱したのか?

まず、整理するために今一度、なぜ英国はEUを離脱したのかを振り返ってみます。著者によれば英国は移民問題でEUから離脱したのではなく、それ以上に議会の主権をEUではなくロンドンの手に戻すためだったと分析しています。

英国議会の主権回復こそ離脱の動機・・・(省略)・・・国民投票でも出口調査によれば、EU離脱の第一の動機は移民云々ではなく、イギリス議会の主権でした。イギリス人にとって政治哲学上の絶対原則は議会の主権にあるのですが、EU離脱を選択するまでイギリス議会は主権を失っていたのです。

(2)なぜ、EUが悪いのか?

イギリス議会に主権を取り戻すためにEUを離脱したのは理解できましたが、では具体的にEUのどんな点が悪かったのでしょうか。著者によれば「不安定」なドイツがヨーロッパのイニシアチブを握っているからだと言います。確かにEUはメルケル首相率いるドイツの一強社会となっています。ではなぜ、一見して成功しているように見えるドイツが不安定なのでしょうか。

「経済」だけを見てはいけません。「人口」面で大きな問題を抱えているのですから。男子の高等教育の進学率は、停滞どころか低下しています。出生率は1.4で、少子高齢化が急速に進んでいます。このような人口学的指標、社会的指標を見れば、ドイツのことを均衡状態にある安定した社会であるとは決して言えないのです。そういう不安定なドイツに率いられる以上、ヨーロッパは安定の極とは言えません。

確かに英国の指標を見てみると出生率は1.9(2015年)で高等教育進学率もドイツを上回って年々上昇しています。少子高齢化の心配もドイツよりはありません。今は不安定な状態にはありますが、この観点から長期的に見て、著者は英国は再建に向かっていきドイツ=EUは崩壊に向かっていくと予測しています。

(3)英国ポンドは長期的に回復に向かう可能性高い

では英国ポンドは今後どうなっていくのでしょうか。英国が2016年6月23日に行った国民投票でEU離脱派が勝利し、英ポンドは暴落しました。もともと2015年には190円台にも到達していたポンド・円がEU離脱の是非が英国の主要問題となってからは徐々に下落をして国民投票の結果が出てからは150円台から一気に130円台まで下落しました。1年半程度で50円以上も暴落したことになります。

その英ポンドもメイ首相になり2017年はポンド円は140円台まで回復しています。もちろん、EUを正式に離脱するまでに英国は数多くの困難を乗り越える必要性があることと、離脱した後もかつての輝きに戻せるかという点で大きな不確実性がある国ではあります。

しかし、本書の視点だと、崩壊していくのはドイツやEUで、英国は再建に向かっていく可能性は高いと結論付けることができそうです。つまり、それは何を意味するのかというと長期的に見て、ポンド円は再び復活していく可能性が高いということです。

 

東猴史紘

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