【映画評】未来を花束にして

1912年、ロンドン。夫と幼い息子と3人で生活しているモードは、夫とともに洗濯工場で働いていた。低賃金、長時間労働、劣悪な職場環境に耐えながら黙々と仕事をこなすモードだったが、ある日、女性参政権を求める活動家の行動を目撃、さらに友人の代わりに公聴会に参加したことをきっかけに、自分の生き方に疑問を持つようになる。活動のリーダーの演説を聞き、デモにも参加するようになったモードは運動にのめり込んでいくが、彼女の活動を快く思わない夫から家を追い出され息子と引き離されることに。さらに仕事をクビになり、警察にも目をつけられてしまう。それでもモードは、これまでと違う生き方を目指して社会を変える闘いに身を投じていく…。

20世紀初頭の英国で女性参政権を求めて立ち上がった女性たちの生き様を実話をもとに描く「未来を花束にして」。主人公モードはごく平凡な主婦である。友人の代理で急きょ公聴会で話すことになるモードは、権利を声高に訴えるのではなく、7歳から過酷で劣悪な労働に従事してきたことを淡々と話した。自分自身の人生と置かれた環境を自分の言葉で話したことが、彼女の中で変化のきっかけとなるのが、非常にリアルで興味深い。「もっと別の生き方があるのではないのか」という素朴な疑問が、女性参政権獲得という大きなうねりを生む震源となったのだ。警察に目をつけられた彼女たち活動家は酷い拷問を受け、警察のスパイになれと脅される。もちろん挫折や犠牲もあるが、それでも彼女たちは、活動の象徴である薄紫の花を身に着けて戦った。その姿は、何とりりしく、美しいことか。

21世紀の現在、女性の指導者が生まれる国もあれば、道半ばの国もある。参政権や職場の待遇など、今、私たちが当たり前のように享受している権利は“たくさんの名もなき花たち”が種をまいてくれたおかげなのだと改めて知った。原題の「サフラジェット」とは、女性の参政権を求める過激な活動家の蔑称として当時のイギリスのマスコミが作り上げた造語だそう。映画には実在の人物も登場するが、歴史上の偉人ではなく、特別な思想も教養も、財産もない、搾取される側の弱い女性を主人公にしたことで、共感する部分が大きくなった。今から100年以上前、女性たちが行動を起こした、階級を超えた結束と運動は、現代も続く、さまざまな差別への勇気ある挑戦なのだ。女性はもちろん男性にも見てほしい映画である。
【65点】
(原題「SUFFRAGETTE」)
(イギリス/サラ・ガヴロン監督/キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、メリル・ストリープ、他)
(女性映画度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。