これを読まずに共産中国を語るな『マンガで読む嘘つき中国共産党』 --- 山田 高明

中国にもついにこういう人が出てきたか、と思うと大変感慨深い。『マンガで読む嘘つき中国共産党』(新潮社)を読んで、時代の大きな変化の波を感じました。

著者は中国亡命漫画家の辣椒(ラー・ジャオ:以下カタカナで表記)さん。

共産党によって逮捕され、亡命を余儀なくされた表現者

ラー・ジャオ氏は、習近平指導体制下で再び思想統制を強める共産中国にあって、マンガによる「政治風刺」という孤高の戦いを実践している民主活動家です。

そのせいでラー・ジャオ氏はある日、共産党から“お呼び”がかかりました。ユーモアを交えて、その時の経験を以下のように描写しています。

こうして、ラー・ジャオ氏は本当に留置場へぶち込まれてしまうんですね。

このように、身をもって共産中国の言論弾圧を体験している方です。だから、思想や言論、表現の自由がいかに大切かを知り抜いている。

日本国内の反体制派への違和感

日本にも安倍政権を指して「独裁政権だ!」と糾弾している者たちがいますが、本物の独裁政権だったら、その発言だけでとっくに監獄行きのはずでしょう。

だから、ラー・ジャオ氏も、彼らには違和感を覚えるようだ。

本当に命がけで抑圧的な国家権力と戦っている中国の民主化闘士は、日本の”ファシスト政権と戦っている人々”を見て、やはり奇妙に感じるんですね。まあ、背後にはナイーブな若者を利用している連中もいるわけですが・・。

あくまで彼らの「一部」と信じますが、「近隣諸国との話し合い」を掲げながら、国内では意見の違う人々とまともに話し合いもできず、ただひたすら“ヘイト”だの“レイシスト”だのという「レッテル暴力」に終始するので、二重におかしな存在なわけです。

ところで、この後の展開が見ものです。「本物の独裁政権」だったら日本がどうなってしまうかを上手に描いている。背筋も凍る展開です。独裁政権のパシリ役の日本側登場人物がまた笑えますが、それは本を手にした人のお楽しみということで・・。いずれにしても、習近平や金正恩よりも、安倍総理のほうが独裁者に見えるという、魔法の色眼鏡をかけている「フェイク左派」や「フェイクリベラル」の皆さんには必読の内容でしょう。

閉ざされた言論空間の中で過度の”愛国教育”が行われる中国

ただ、日本では架空の話でも、中国ではその独裁政権がリアルなんですね。

ラー・ジャオ氏によると、習近平が国内の統制強化に乗り出しているため、中国は再び毛沢東時代さながらの専制へと回帰しつつあるという。しかも、毎年二ケタの軍拡に見られるように、国内だけでなく、対外的にも脅威が増している。

私がラー・ジャオ氏のマンガで「怖いな」と思ったのは、江沢民の愛国教育政策以降に育った現代中国人のメンタリティです。中国政府は海外サイトを遮断したり、特定用語の検索を無力化したりして、インターネットの世界ですら完全に検閲に成功しています。その閉ざされた思想・言論空間の中で、彼らは子供の頃からひたすら愛国教育と称する中華民族至上主義や、西側への憎悪・被害者意識などを植え付けられている。

当然、戦争になったら、日本への慈悲など一片もないでしょう。

ただ、ラー・ジャオ氏も言っていますが、諸悪の根源は普通の中国人を今なお恐怖と暴力で支配している共産党なわけです。内心では民主体制への移行を強く願っている市民も多いのですが、政治的恐怖心から中々本音を言えない状況のようです。

日本の「自称親中派」と「嫌中派」の異様さ (*これはラー・ジャオ氏ではなく、筆者の意見です)

だから、本当の「親中派」であれば、そういう人々と連携して共産党独裁体制を変えなければならないと思うはずですが、逆にその独裁政権の卑屈な太鼓持ちをやるのが日本の「親中派」の政治家や知識人たちです。北京への大朝貢団を率いた小沢一郎と当時民主党議員たちの独裁政権に媚を売る姿は、今思い出しても気持ち悪いものがある。

また、歴史的にも尖閣諸島が日本固有の領土であり、かつ仮に日中間にその領有権の「棚上げ合意」が実在したとしても、それを先に破ったのが鄧小平である事実も知らず(あるいは承知した上での確信犯なのか)、ひたすら独裁政権の代弁者をやる元外務省国際情報局局長とか、一般市民が外国人との接触を事実上禁止されていた毛沢東時代になぜか訪中して「日中友好」に目ざめたジャーナリストだとか、とにかく異様な「親中派」が多い。

二言目には「安倍独裁政権打倒!」と叫んでいる皆さん、打倒する対象を間違えてはいませんか? アジアの平和を乱しているのは誰ですか? 安倍憎し・自民党憎しのあまり、誰よりも中国人を苦しめている残酷な体制の味方をして、結果的に巨大な国家権力による大規模な人権蹂躙の共犯をやっているのではありませんか?

対して、逆の側には、独裁政権と普通の人々とを区別せず、中国の歴史や文化にも一切興味やリスペクトがなく、中国人を「支那人」などと呼んで侮辱し、中国のものなら何でも嫌悪するという、野蛮で差別的な「嫌中派」がいる。

せっかく独裁体制と市民との間に溝があるのだから、それを広げ両者を分断するのが戦術的にも正解だと思うのですが、中国人全体を敵視し、攻撃することで、かえって独裁政権の強化を助けている。そして政権と国民が一体化していくほどに、共産中国はどんどんナチスドイツへと近づいていく・・・それこそ利敵行為ではありませんか。

拠って立つのは「反専制・親民主主義」

この点で、ラー・ジャオ氏の姿勢に学ぶことができる。彼の立ち位置は、親「国」・反「国」ではなく、あくまで「価値観」なんです。

「反専制・親民主主義」・・・これですね。換言すれば、人民の側に立つか、それとも人民を恐怖と暴力とで支配し、自らは特権を貪る側に与するか、ということ。

本の最後で、ラー・ジャオ氏は彼自身の家族の物語を描いています。涙なしでは見れません。彼の原点を見ることができます。そして、そこには日本や中国といった国家の違いを越えた普遍的な人間の物語があります。ぜひとも実際に本を手にとってください。

(フリーランスライター・山田高明 個人サイト「フリー座」 )