専門家に聞いた!なぜ日本音楽には指揮者がいないの?

尾藤 克之

写真は参考書籍書影

皆さまは、日本音楽を聞きながら疑問に思ったことはないだろうか。「日本音楽にはなぜ指揮者がいないのか?」。実に興味深い回答があるのでご紹介したい。

日本音楽のなぜ? 』(左右社)の著者であり、日本近世芸能研究者の竹内道敬(以下、竹内氏)は、わが国における日本音楽の第一人者として知られている。

簡単に略歴を紹介したい。国立音楽大学教授、放送大学客員教授を経て、財団法人古典会執行理事。主な受賞歴として1982年芸術祭賞受賞、1989年『近世邦楽研究ノート』で田辺尚雄賞受賞、第31回河竹賞受賞がある。

筝がテンポの主導権を握る

――まず基礎的なことから抑えておきたい。

「日本音楽、とくに歌舞伎の音楽、たとえば長唄『京鹿子娘道成寺』では、舞台正面に唄方が十人かそれ以上、三味線方もほぼ同じ人数が横一列に並んでいます。こういうときには十挺(丁とも書く。三味線方)十枚(唄方)と言います。そしてその前には笛(たいてい一人)、小鼓三人(多いときには五人)、大鼓二人、太鼓一人が並んでいます。」(竹内氏)

「音楽の演奏家だけで二十五人ほどが出ているのに、指揮者はいません。『勧進帳』でもほとんど同じですが、太鼓はいません。初めて見た外国人が驚きますが、演奏が始まると、指揮者がいないのに整然と揃っているのにびっくりいたします。」(同)

――オーケストラでも合唱でも、現在の音楽演奏会では指揮者がいるのは当然だし、その指揮者はスターの扱いをうける。

「ヨーロッパ音楽で指揮者がいないのは弦楽四重奏くらいですから、不思議がるのは当然です。雅楽の管弦の演奏はまず龍笛の演奏から始まります。これが『音頭』です。全員が揃ったら音量は次第に大きくなり、テンポも早くなって、これで雅楽の合奏になります。どうも筝がテンポの主導権を握っているようです。比較的音量の小さい筝が全体をリードしているのが特色です。」(竹内氏)

指揮者の有無は民族性の違い

――竹内氏によれば、オーケストラやバレエなどを聴くと不思議な感覚を覚えるそうだ。観客に背中を向けている人いること。そしてその人がもっとも人気があること。これは、民族性に関係があるとのことだ。

「十八世紀には金属製の、重くて杖よりも長い棒で床を叩きながらリズムを取っていたとか。どのくらいの音だったのかわかりませんが、かなりうるさくて大きな音だったと思います。大きな音を出さなければ揃わないというのが面白いと思います。」(竹内氏)

――ある程度以上の人数になると、指揮者がいないと音楽演奏はできなかったようである。それは多分、民族性が影響している。演奏家も個性豊かな人間集団であるとすれば指揮者は必要だったのである。本書は、日本音楽をわかりやすく噛み砕いて「よくある質問」に答えている。歌舞伎・能楽・雅楽がより楽しくなるかも知れない。

参考書籍
日本音楽のなぜ? 』(左右社)

尾藤克之
コラムニスト

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