【映画評】海は燃えている イタリア最南端の小さな島

イタリア最南端部に位置するランペドゥーサ島は、北アフリカに近い小さな島だ。そこに暮らす12歳のサムエレ少年は、友だちと手作りのパチンコで遊んだり、漁師である父から教えてもらって船酔いを克服する練習をしたり、毎日平和に暮らしている。一方、ランペドゥーサ島は、ヨーロッパへ密航する難民や移民たちの玄関口となっていた。カメラは、島の人々のごくありふれた日常と、命がけで海を渡る難民の実態、ひっきりなしに到着する難民船の救援活動を、静かに映し出していく…。

ヨーロッパへ密航する難民到達の最前線であるイタリア最南端の小島、ランペドゥーサ島を舞台にしたドキュメンタリー「海は燃えている イタリア最南端の小さな島」。今でこそ、難民や移民問題が世界中で大々的に叫ばれているが、地中海のシチリア島南方、アフリカに近いランペドゥーサ島は、何十年も前から中東やアフリカからの難民が毎日のように押し寄せ、彼らを救助する活動が日常的に行われている。一方で、5500人の島民が静かに生活する素朴な暮らしもそこにある。映画は12歳のサムエレ少年の視点で描かれているが、本作ではサムエレ少年と難民が接触することはない。というより、難民たちは救助されるとすぐに収容センターのようなところに送られるので、島民との接触はほとんどないのだ。難民救助の現場に据えられたカメラは、容赦ない現実を映し出すが、彼らを診察するバルトロ医師が、多くの命が日々失われることに葛藤する姿が象徴的である。

監督のジャンフランコ・ロージは「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」でベネチア映画祭金獅子賞受賞の実力派で、本作では、第66回ベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞している。救援活動を行うイタリア海軍の船に乗船し撮影することを許されるほど、現場で働く人々や島民、さらには難民とも信頼関係を築いたロージ監督は、タイムリーな政治的問題を全面に押し出さない。淡々と現実を映しながら、その映像は、原初的な力強さを持つ島の自然や、慎ましい島民の暮らし、悲劇と憔悴の中でも生命力を失わない難民たちの表情を、美しくポエティックにとらえている。テロップ、ナレーションなどで詳細に語らないので決して分かりやすい作品ではないが、映像の力で勝負する21世紀のネオリアリズモだ。
【80点】
(原題「FUOCOAMMARE/FIRE AT SEA」)
(伊・仏/ジャンフランコ・ロージ監督/サムエレ・プチッロ、マティアス・クチーナ、サムエレ・カルアーナ、他)
(映像美度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年2月22日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。