銀行等が担保をとる真の理由は ?

「担保」を巡るあれこれとは?(写真ACより:編集部)

民法学の大家である我妻榮先生の著書の「担保物権」の「質権」の解説で、昔の質屋は大学卒業生の卒業証書を質種として取ったという話が出てきます。

質屋にとっては卒業証書は何の価値もありませんが、当時の大学生は就職先が決まると就職先に卒業証書を提示する必要があるので、貸したお金をきちんと返しに来るからだそうです。

ところで、ヨーロッパ中世の国王たちは、お互いに人質を交換し合うことで平和を保障しようとしたそうです。戦争になればお互いの人質が返ってこなくなりますから。

ある国王が、隣国への人質として王子の代わりに高価なダイヤを差し出そうと考えました。それを知った賢明な家臣は「ダイヤを差し出してはなりません。王子を人質として差し出すべきです」と国王を諭したそうです。

なぜかというと、ダイヤは隣国の国王にとっても価値の高いものであり、隣国の国王としては預かったダイヤをわが物にしようとして戦争を仕掛けてくる恐れがあるからです。その点、王子は隣国の国王にとってほとんど価値がないので、わが物にしようとするインセンティブが生じません。

かように、一般的に「よい人質」というのは、人質を出した方にとって価値が大きく、取った方にはほとんど価値がないものなのです。価値評価における非対称性が人質を優れたものにするのです。

最初の例だと、卒業生にとって卒業証書は価値が大きいものですが、質屋にとってはほとんど価値がありません。それゆえ契約関係は平和裡に守られ、不当な質流れにされる恐れはなく、卒業生の方もきちんと借金を返済するのです。

銀行が経営者個人を会社の借金の連帯保証人にする第一の理由は、経営者に一生懸命働いてもらって円満理に貸金を返済してもらうためなのです。経営者個人の資産を当てにしているケースは滅多にありません。
会社所有不動産に抵当権を付けるのも、会社が破綻した時の保全は第二義的であって、第一義的には円満な返済を促すと共に変な先から借金をして抵当権を設定しないようにすることが本来の目的であるのです(上位に銀行が抵当権を付けていれば、不動産担保のうま味がなくなりますから)。

ところが、バブルで不動産価格が上がると、会社の収益力を考慮することなく不動産の価値に重きを置いてバンバン融資が実行されました。不動産についてはズブの素人である銀行が本来の姿を忘れてしまったのです。円満な返済を促すという本来の目的をないがしろにしたため、バブル崩壊で不動産価格が下落すると同時に不良債権が山積されることになりました。

アメリカのサブプライムローンはもっとひどかったようです。
ノーアセット、ノーインカム、ノージョブの三拍子揃った返済能力のない人に対して不動産融資をし、融資債権をとっとと証券化して売り払ったのですから。
もはや融資業務とは到底言えない状況だったようです。

銀行の融資担当の方々は、そろそろ卒業証書を質種に取った質屋のような姿勢に戻っていると信じています。お金を貸して利息と元金をきちんと円満理に返してもらうことこそが融資業務の基本中の基本ですから。

荘司雅彦
講談社
2014-02-14

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。