ソムリエ協会と日本酒のいま

若井 朝彦

日本ソムリエ協会(J.S.A.)の年度は1月からはじまる。そしてこの2月初旬から各地で2017年度第1回の例会が順次開催されているのだが、本年度通年のテーマは、ワインではなくて「日本酒」。

わたしも早速2月8日に行われた京滋支部の例会(セミナーおよびテイスティング)に出席してきた。講師は、昨年度に就任した田崎真也会長が自らが。セミナーのタイトルは

『ソムリエのサービスと日本酒のテイスティング』

である。

(ある日本酒セミナー会場の光景)

各支部とも第1回の例会は同じタイトルで、講師もすべて会長がつとめて全国31個所をまわる。すごい熱の入れようだ。

ソムリエは、飲料である限りはノンアルコール系の飲み物ももちろん守備範囲にしているし、ミネラルウォーターだってセレクトする。そして食後のスピリッツやシガーも扱う。またワインのテイスティングの応用で、コーヒーや紅茶のブレンドすら試みることもある。だからさらに日本酒を勉強したところで、特に怪しむにはあたらない。世界ソムリエ大会が日本で開催されれば、招待者一同を伏見に案内して酒蔵を見学させていたこともあったほどだが、本来はワインが専門の集団が、挙げてかつ一年を通して日本酒に特化するのはなぜなのか。

例会に出てみて、その答えを二つ確かめたのだが、その一つはすでに田崎会長も本にも書いているので、まずそこから引用しておこう。

日本酒のテイスティングを国際化するべき理由

ワインのテイスティング用語に関して見てみると、・・・使用されている用語は、意味づけ、理論づけがされており、言語のように他人との間で伝達し合えることが基本となっています。そして、それらは、国際的なものでもあり、・・・すべての国の人たちと感覚を共有することができるのです。
・・・
日本酒の輸出が増え、世界中で興味を持つ人が増えてゆく中において、日本酒のテイスティング用語も国際的なレベルへと言語化してゆかなければならないでしょう。

田崎真也『新しい日本酒の味わい方』(SBクリエイティブ・2016)17p

そして今年度からソムリエ協会が

《 J.S.A. SAKE DIPLOMA 》

という認定試験をはじめるから、というのがもう一つの答え。上記の「ディプロマ」とそのマークの商標登録が、新年になってやっと完了して、テキストも数日後に発送がはじまるということだった。協会の運営としては、二番目の理由の方が主なものかもしれない。

わたしは10年ほど前からよく、半ば冗談ではあるが

「日本開闢以来、お酒がこれほどおいしくて、しかもこんなに容易安価で手に入ることは、まったくなかったことなのだ!」

と言うことがある。日本酒の品質は、年々向上しているだけでなく、ネットを通じて情報の垣根もほとんどなくなり、発注もまた同様に簡単で、珍しいものもすぐに手に入るようになったからなのだが、これはわたしだけの主張ではなくて、知人や、またネット上でも、ほとんど同じ表現によく出交わす。お酒好き(この稿ではつまり「日本酒好き」)は一様にそう考えているといってよいだろう。

だからといって日本酒の製造量や消費量が劇的に増えているというわけでもない。国内に限っていえば、むしろ先細りの懸念の方が大である。その危機感がむしろ品質の向上を強く促していることもあって、逆に世界からの注目の度合いが増しているのが今なのだ。

やがてこの傾向が地球を一周して、日本人全体がもう一度日本酒に目覚めるのももうすぐなのではないだろうか。ブレイクの環境は整っているし、すでにその臨界は越えていると思う。何か小さなきっかけが、導火線になるかもしれない。

こういったことからすれば、ソムリエ協会のこの舵取りというものはまったく妥当なことだといえる。ワインの情報の獲得に専念していた80年代、インポートの後押しに苦心していた90年代を思い起こせば、いまや全く別次元の活動ではあるのだが、これはまったくうれしい変貌だ。海外でも国内でも日本酒の消費が増えれば、蔵元、醸造関係者の経営がより安定するばかりではなく、酒造好適米の作付面積もふえるだろうし(現状でも山田錦は不足傾向である)、耕地国土の保全にすら役立つのである。

ところで最後にやや専門的に。

今回のセミナーやディプロマの教本テキストなどでは、日本が以前から使っていた酒の見極めの用語を、ワインの鑑定用語に置き換えるという方針が示されている。

たとえば色調では、(おおむね)薄い方から順番に

クリスタル → イエロー → 山吹色 → 黄金色 → トパーズ色 → 琥珀色
→ 紅茶色 → コーヒー色 → 濃口醤油色

といった具合なのだが、従来からの、日本酒固有の

スミ サエ テリ

といった語は退けられている。ワイン標準、国際標準からすれば、当然のことではあろうが、しかしこういった語も、副次的な表現として残しておく余地はないだろうか。

すでにWASHOKU(和食)、KAISEKI(懐石)、DASHI(出汁)、UMAMI(旨味)という語が、ほとんどそのまま世界的に認知されているように、日本酒の持つSUMI(澄)やSAYE(冴)が「刺身」や「寿司」という言葉、そして味覚とも響き合ったり、TERI(照)が「テンプラ」などと調和を見せることからすれば、無理に避けることもないと考える。これはむしろ海外のソムリエや愛好家によって、自然に選択してもらえばいいことではないだろうか。

また海外での消費が増えるにしたがって、海外向きに仕上げされた日本酒も次第に増えるのではないかと思う。ファンが増えて、海外からの強い要望が寄せられるようになればシメたものだ。そういった過程で、日本においても、新しい日本酒の味覚と出会うことができるだろうし、いずれにしても日本酒が世界と触れ合って、獲るものはあっても失うものはほとんどない。

この各支部の例会(セミナー)はまだ3月も続く。残席があれば一般の方も参加が可能。醸造関係者でなくても、協会員でもなくても、ソムリエでなくても問題はない。おそらく必要なのは、お酒への好意と好奇心と会費でしょうか。日本酒のブラインドテイスティングの機会はまだまだ少ないので、ご興味の方にはぜひご参加をとお奨めいたします。

ところで上記の通り、まだ未開催の会場があって、そこでは銘柄酒質を伏せたままテイスティングをするため、詳しい内容はもちろんここには書けなかったが、京滋支部では、「玉栄」「祝」を使用したお酒も選ばれていた。なるほどの演出だった。各支部でもそれぞれきっと特色のあるお酒が準備されることになるだろう。

2017/02/23 若井 朝彦
ソムリエ協会と日本酒のいま

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