【映画評】モアナと伝説の海

豊かな自然と数々の伝説が残る南の島モトゥヌイで生まれ育った16歳の美しい少女・モアナ。だが、モトゥヌイには、島を取り囲むサンゴ礁の外へ出てはいけないという掟があった。幼い頃、不思議な体験によって海と運命的な絆で結ばれたモアナは、いつしか海に愛されるという特別な力を持つようになる。ある時、モトゥヌイではココナッツの木が病気にかかり魚が一匹も取れなくなるという不穏な出来事が起こり始める。海に選ばれたモアナは、人々を救うべく大海原へ飛び出し、伝説の英雄マウイと共に、命の女神テ・フィティの盗まれた心を取り戻す冒険の旅に出る…。

南太平洋に伝わる伝説をベースに、海に選ばれた少女モアナの成長と冒険を描くアニメーション「モアナと伝説の海」。数々のヒロインを生み出してきたディズニー・アニメーションが放つ新作の主人公は、海を愛し、海からも愛される少女モアナだ。モアナの冒険は、今までの作品と同様に壮大だが、歴代のディズニー・プリンセスと違って、彼女は恋に落ちない。途中で出会う、半神半人の英雄マウイとは、いわば相棒のような関係なのだ。そこがサバサバしていて、小気味よい。とはいえ、モアナは16歳の女の子なので、将来への不安や、自分が何者なのかとの悩みも持ち合わせている。

そんな彼女をサポートするのが、海だ。風景や自然が登場人物のような物語は数多いが、ここでの海は、文字通り、ひとつ(一人)のキャラクター。言葉は一言も発しないのに、その感情や意志が見事なまでに伝わってくる。モアナを愛し、励まし、からかったりなだめたりする海は、頼もしくも優しい存在だ。何よりもその映像が見事という他ない。透明感、流麗な動き、輝きと形状変化。色、明度、彩度は状況によって繊細に変化している。実写としか思えないほどのクオリティで目を奪われた。モアナを誰よりも愛してくれたタラおばあちゃんの「自分の心の声に従いなさい」との言葉は、ディズニーらしいストレートなメッセージだ。モアナの勇気を後押しするのがテーマソング「どこまでも(How Far I’ll Go)」の伸びやかなメロディー。誰もが持つ可能性の肯定という前向きなテーマ、非白人の主人公、自然への敬意と、現代に響くタイムリーな作品に仕上がった。
【70点】
(原題「MOANA」)
(アメリカ/ロン・クレメンツ、ジョン・マスカー監督/(声)アウリィ・カルバーリョ、ドゥエイン・ジョンソン、テムエラ・モリソン、他)
(恋愛度:☆☆☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年3月10日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式YouTube予告動画より)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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