交通事故、怪我をした側が加害者になることも

荘司 雅彦

写真ACより(編集部)

自動車を運転していると「ヒヤリ」とすることが時々ありますよね。
道交法無視の奔放な自転車がスイスイ自動車の間をぬって走ることも多いので、危うくぶつかりそうになった経験をした人もいるのではないでしょうか?

人身事故が起きて相手が怪我をすると、自動車運転者にはとても厄介なことが待ち受けています。
まず、行政処分として免許の点数が減らされたり、もともと点数が少ないと免停や免許取消の恐れも出てきます。

次に、自動車運転過失致傷という刑事事件で警察や検察で取り調べを受け、最悪の場合は公開の法廷で刑事裁判の被告人として裁かれます。交通事故の場合は略式起訴という簡易な手続で罰金を収めるケースがほとんどですが、状況によっては本裁判になることもあります。

ひどいスピード違反で公判請求された国選弁護事件を担当したことが、私は2度ほどあります。事故を起こしていないケースです。

更に、被害者が怪我をした場合、治療費、慰謝料、休業損害などの民事賠償責任を負わされます。民事賠償のほとんどは保険で処理されますが、保険会社は示談を円満にすすめるために「被害者への見舞い」を強く勧めます。

自動車を運転していたあなたに過失があれば、社会儀礼としての「見舞い」はすべきでしょう。保険会社が間に立ってくれたとしても、当初の感情の縺れが原因でいつまで経っても「示談」が成立しないのは精神的に厳しいですから。「見舞いにも来なかった」という感情的なことが原因で、示談交渉が長期化するケースがけっこう多いのです。

問題は、仮にあなたに過失があったとしても怪我をした相手の過失がうんと重いようなケースです。
相手の自転車がいきなり飛び出してきて、過失割合で相手が9、あなたが1というような場合でも、相手が怪我をしてしまうと「申し訳ない」という気持ちが生じてしまいますよね。

特に、相手が入院してあれこれ不自由をしていたりすると「出来るだけのことをしなければ」という責任を感じるケースが多いでしょう。「免許の点数もあるし、刑事事件として警察で事情を訊かれているし、相手の気分を害さずに円満に示談にしたい」と思うのが人情です。

しかし、人情もほどほどにしておかないと、あなた自身が「深刻な被害者」になってしまいます。
怪我をした方は確かに不自由だし痛いし…等々お気の毒なのですが、9割は本人自身の過失なのです。9割は自業自得の自損事故のようなもので、あなたが関与したのは1割だけです。

50ccの原動機付自転車で奔放な運転をした挙句自動車と接触し、怪我を負ったと言って無理難題を吹っかける被害者(?)を、私はたくさん見てきました。

多くは、保険会社すら手を焼いて弁護士案件になるような被害者(?)です。
何時間も辛抱強く悪口や苦情に耳を傾けてガス抜きをした挙句、ようやく示談に至るケースが多いのですが、「この罵詈雑言、運転者本人だったら耐えられないだろうな〜」と思ったものでした。中には、ノイローゼになってしまった運転者もいました。

自動車は確かにひとつ間違えばとても危険なシロモノです。運転する以上は、それなりの責任を持たなければなりません。しかし、相手が怪我をしたり最悪死亡したとしても、全責任を運転者が負わなければならないという訳ではありません。

運転者の過失が本当に軽微なケースは多々あります。
過失割合を1対9にするのも気の毒に思えるケースがたくさんあるのです。
くれぐれも自業自得の怪我という結果だけで精神的に追い詰められ、深刻な被害者にされてしまわないようご注意下さい。あなたの過失が軽微であれば、怪我をした人に対して社会的儀礼を尽くせば、それ以上の負担を背負い込む必要は全くないのですから。

荘司 雅彦
幻冬舎
2016-05-28

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年3月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。