日銀が将来利上げしても、お金を借りている人はあまり困らない

内藤 忍

米連邦準備理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)で、想定通り利上げを決定しました。政策目標である雇用情勢の改善と目標インフレ率にマーケット環境が近づいたというのが理由です。マイナス金利が続く日本ですが、アメリカと同じように日銀が利上げするタイミングが黒田総裁が交代する前に来るのでしょうか?

お金を借りて不動産投資をしている人の中には、そんな将来の日本の金利上昇に神経質になっている人がいます。日本で利上げが起こる可能性を、シンプルに2つのケースで想定してみます。

1つは景気回復によって、物価が2%まで上昇し、金融の引き締めが必要だと判断する場合です。現在のアメリカに近い、良い金利上昇と言って良いでしょう。このような環境では、景気回復から株式や不動産価格も上昇すると思われます。

お金を借りて不動産投資している人は、金利上昇で変動金利借入なら返済額は少し増えるかもしれません。しかし同時に景気回復によって、賃貸需要も高まり、家賃の上昇も期待できます。テナントや賃借人が入っている限り、大きな危機に陥ることはありません。

もう1つの利上げのシナリオは、悪い金利上昇によるものです。日本の財政悪化懸念、日銀の信認の低下によって、日本国債と円が売られる。この場合、インフレと円安がかなり短期的に起こる可能性があります。その場合、インフレ阻止と通貨防衛の観点から金利を引き上げざるを得ないと言うケースです。

お金を借りて不動産投資している人は、変動金利借入なら金利の急騰で返済は大きく増えるかもしれません。しかし、想定を上回るインフレによって、不動産の価格の急騰の恩恵を受けます。また借入金額自体は、インフレになれば実質的に軽減することになります。金利上昇のマイナスより、インフレによるメリットの方が大きくなるのではないでしょうか。

どちらのケースにしても、日本の金利が上昇する場合、お金を借りている不動産投資家に対する影響はコントロール可能。これが私の個人的見解です。金利上昇は借入にとって確かにマイナスですが、問題はそれに伴う資産サイドがどうなるかです。金利負担の上昇よりも保有する資産にプラスの影響があれば良いのです。

このように整理すると、借入をして不動産を保有することはリスクであると同時に、将来の金利上昇やインフレに対するリスクヘッジでもあることに気が付きます。金利上昇が発生して預貯金だけしか保有していないと、実質的に資産が減ってしまう可能性が考えられるからです。「リスクを取らないリスク」です。

現実は、これほどシンプルでは無いかもしれません。いずれにしても金利上昇に関して心配な方は、私と同じように自分なりのシミュレーションをしておくのが良いと思います。金利がいつ上がるかとあれこれ予想するより、もし上がったらどうなるか「避難訓練」しておくべきなのです。

良い金利上昇を望みながら、悪い金利上昇を覚悟して、借入と資産のバランスを考える。これが私が実践し、個人投資家の皆さまに提案している資産運用の基本方針です。

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※内藤忍、及び株式会社資産デザイン研究所をはじめとする関連会社は、国内外の不動産、実物資産のご紹介、資産配分などの投資アドバイスは行いますが、金融商品の個別銘柄の勧誘・推奨などの投資助言行為は一切行っておりません。また投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2017年3月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。