人間はなぜ合理的に考えるのかはむずかしい問題で、いまだに明快な答がないが、人々が反射的な速い思考で考える原因は明白だ。何者かが近寄ってきたとき、「これは敵か味方か」を合理的な「遅い思考」で推論していると間に合わないので、見たことのない顔からは瞬時に逃げる必要があるのだ。
そういう能力は進化で生き残る上で重要だから、脳の情報処理の80%以上は大脳辺緑系の古い脳の「速い思考」で行われている。「石原氏の責任追及が移転問題とどういう関係があるのか」などという「遅い思考」は面倒でコストがかかるので、「石原が悪い」という印象を作り出して「悪いやつのやったことは悪い」と近道する。
東国原氏のようなワイドショー芸人が「古い脳」を刺激するのは賢明だ。最近の日本テレビの世論調査では安倍内閣の支持率が7%ポイント以上も落ちたが、その最大の原因は森友学園をめぐる騒動である。土地取引をめぐる「政府の説明に納得しますか、納得しませんか?」という質問には、83.8%が「納得しない」と答えている。
つまり8割以上がワイドショーのいう「疑惑」を信じているわけだ。かりに不正があったとして、それが安倍首相の責任なのか、国会で1ヶ月も審議する問題なのか、という面倒な問題は考えない。そんなことは政治家が考えればいい――これは正しい。議会はこのような有権者の情報コストを節約する制度だからである。
だが有権者がこういう反応をすると、選挙区に帰った政治家は「古い脳」に反応し、ワイドショー的な不安に答えようとする。かつては国会議員の中のエリートが首相になるしくみで劣悪なポピュリストは淘汰されたが、最近は政治家が世論調査を気にするようになり、よくも悪くも直接民主制に近づいてきた。
それは「行政国家」の暴走を監視するメリットもあるが、東国原氏のような「ワイドショー脳」が政治をミスリードする危険のほうが大きい。豊洲と森友をめぐる政治のワイドショー化は、今後もっと危険な暴走が起こるリスクを示唆しているので、笑い話ですませないで警戒が必要である。