ドナルド・トランプ大統領のポピュリズムに対して、日本を含めた全世界のマスメディアが批判しています。この記事ではポピュリズムに関する方法論について考えてみたいと思います。また、ケーススタディーとして築地市場の豊洲移転問題におけるポピュリズムについて適宜検証してみたいと思います。
ポピュリズムの定義
【ポピュリズム populism】とは、論敵を【善良なる市民 law‐abiding citizens】の権益を脅かす【腐敗者 corrupt elites】として【大衆 the masses】に認識させることで敵視させる【情報歪曲 distortion】の手法です。このとき、大衆の敵となる論敵を敵とする論者は大衆の味方(敵の敵)として認識されることになります。このように大衆の敵を作ってそれに対峙することで大衆の人気を得るポピュリズムの使い手のことを【ポピュリスト populist】と言います。
一般に、ポピュリストは、国家や企業等の社会的組織において各種の権益を持つ少数のエリート・資本家・資産家、すなわち【エスタブリッシュメント the establishment】で構成される【上流階級 upper class】を腐敗者として認定し、多数で構成される【中流階級 Middle class】+【労働者階級 working class】を「善良なる市民」として認定します。【大衆 the masses】は「腐敗者」「善良なる市民」とは異なる概念ですが、人口の多くは中産階級+労働者階級で構成されることから、ポピュリストの扇動によって自らを「善良なる市民」として認識し、ポピュリストによって「腐敗者」として認識された上流階級の人物を敵視しやすいと言えます。
ポピュリズムは、日本語で「大衆迎合主義」と訳されていることから、「ポピュリズムこそが大衆の意見を尊重する真の民主主義である」と主張する人がいますが、それはポピュリズムの定義が不明確だった時代における一つの用法に過ぎず、現在では「大衆の立場に立つように見せかけて、大衆の意見を操作する」手法を指すのが一般的な用法です。
築地市場の豊洲移転問題におけるポピュリズム
共産党は豊洲市場の地下空間のたまり水について「猛毒のヒ素が環境基準の4割に及ぶ値で検出された」として東京都をヒステリックに批判しましたが、これは典型的なポピュリズムです。共産党は腐敗したエリート集団である「東京都」が善良なる市民である「東京都民」の食の安全を脅かしているという図式を大衆に広く認識させて敵視させました。よく言われるように、環境基準以下のヒ素は市販の飲料水に普通に含まれているものであり健康被害がないばかりか、その水を東京都民が飲むわけでもありません。つまり、共産党は情報歪曲を行ったわけです。この情報歪曲は簡単に論破できる内容ですが、ワイドショーを通してこの明白な情報操作を受けた情報弱者は、大騒ぎして東京都を極悪人のように敵視しました。このおバカな敵視が風評の原動力となり、日本全国で東京都の役人に対する大バッシングが発生し、豊洲移転が不合理に反対されました。ちなみに豊洲移転延期の不必要なツケを税金で払うのはおバカな大衆を含めた東京都民であり、そして「善良なる市民の味方」を装った共産党はそのおバカな大衆から支持を受け、おバカな大衆の怒りを煽りに煽ったワイドショーは視聴率を稼ぐというめちゃくちゃ理不尽な状況となっています(笑)。
ポピュリズムの方法
ポピュリズムによる【情報歪曲 distortion】の実践にあたっては、基本的に次のようなプロセスを経ることになります。まず、【スケープゴート scapegoating】として望ましい敵(上流階級が望ましい)を設定し、【情報操作 information manipulation】によって敵に不利な情報を流します。次に【プロパガンダと説得 propaganda and persuasion】による【心理操作 psychological manipulation】を行うことで敵を【悪魔化 demonization】します。そして最後に仕上げとして、悪魔の敵である自分について【対人魅力 interpersonal attraction】をアピールし、【倫理操作 ethical manipulation】が完了します。以下にその代表的な手法を紹介します(より詳しくは[論理的誤謬のサブリスト-9]を参照してください)。
(1) 情報操作
【チェリー・ピッキング cherry picking / suppressed evidence】
自説に好都合な情報のみを与える。
【カード・スタッキング/都合のよい歪曲 card stacking / arrant distortion / one-sided argument】
自説に好都合な情報を強調し、不都合な情報を無視する。
【噂・流言 rumor】
自説に好都合で他説に不都合な根拠のない情報を流布する。
【デマゴーグ demagogue】
自説に好都合で他説に不都合な虚報を意図的に喧伝する。
【誇張 exaggeration】
自説に好都合な情報を誇張して与える。
【誤情報の繰り返し repeating misinformation】
自説に好都合な誤情報を繰り返し与える。
【科学の政治利用 politicization of science】
政治に好都合なように科学的知見を操作・捏造する。
【アリバイ工作 tokenism】
自説にわずかに不都合な情報を少量提供して公平性を示すことで情報受信者に信頼感をもたせる。
築地市場の豊洲移転問題における情報操作
行政組織である東京都が知事のコンセンサスをとらずに重要懸案に対してその都度反論することは困難であると言えます。それを見越しているのか、共産党は「猛毒のヒ素が検出された」という自説に好都合な情報を声高々に叫び、「環境基準以下の水を70年間毎日2リットル飲料しても健康被害はない」「豊洲市場では地下水を利用することはない」という最も重要な情報を語ることはありませんでした。ワイドショーの報道もこれに追従しました。この情報操作を契機に、上記に挙げた様々な情報操作が豊洲移転問題を混迷させたと言えます。
(2) 心理操作
【群集操作/アジテーション crowd manipulation】
プロパガンダの前段階に群集の欲求を刺激する扇動を行うことで自説に誘導する。
【プロパガンダ propaganda】
あらゆる論理的誤謬を悪用して論敵を貶めると同時に自説を宣伝する。
【ブラックプロパガンダ black propaganda】
情報ソースを論敵とする虚偽の情報を創作することで論敵を貶めると同時に自説を宣伝する。
【説話 narratives】
個人の体験談の形式で情報伝達して論理内容よりはエピソードに興味を持たせることで自説を宣伝する。
【大言壮語 fustianism】
大げさな表現を用いて情報受信者を圧倒することで自説を宣伝する。
【大きな数に訴える論証 appeal to large numbers】
大きな数を多用して情報受信者を圧倒することで自説を宣伝する。
【知識を伴わない確信的話術 certainty argument by uninformed opinion】
本質を理解していない論者が確信的な話術によって情報受信者を圧倒することで自説を宣伝する。
【感情的語法 emotional language / loaded language】
強い感情を喚起する言葉を使って情報受信者の思考を停止させることで自説に導く。
【子供騙し論証 Argumentum ad captandum】
一見もっともらしく大衆受けがよさそうな言説を示す。
【標語化 slogans / style over substance】
本質的な議論を阻害する簡潔で明瞭なスローガンを記憶・音読させて情報受信者の思考を停止させることで自説に導く。
【繰り返し repetition / proof by assertion / argument by repetition】
言葉を変えながら同じ主張を繰り返し、情報受信者の思考を停止させることで自説に導く。
【同義語反復 tautology】
証拠の欠如を隠すため、言葉を言い換えただけの反証不可能な命題によって自説を補強した印象を与えて自説に導く。
【大嘘テクニック big lie technigue】
信じるまで嘘をつき続けることで自説に導く。
【ゴリ押し shoehorning】
最近の出来事を無理やり自説に当てはめて、論理の妥当性を証明したような印象を与えることで自説を宣伝する。
【命令 command】
命令されると満足感を得て不合理な要請にも服従しやすくなる情報受信者の心理を利用して自説に導く。
【レトリカルクエスチョン rhetorical question】
自説に好都合な回答を誘う質問型の修辞表現を用いることで、自説に導く。
築地市場の豊洲移転問題における心理操作
「ガス工場の跡地」「土壌汚染」「食の安全の危機」「猛毒のヒ素」「環境基準の79倍」などという言葉がワイドショーで毎日繰り返し強調されて報道された豊洲移転問題は、まさにありとあらゆる誤謬が交錯するプロパガンダの宝庫と言えます。「都民の食の安全が危険に晒される」などという客観的に明らかに不合理な言説でも、繰り返し強調されていれば合理的な言説として大衆が信じてしまうという心理操作が明確に実証された事例であると言えます。特に「安全と安心は違う」などという子供騙し論証に情報弱者はすっかり騙され、理性を完全に失っています(笑)。さらに、「これだけ風評が広がってしまったので移転は無理である」という、扇動された大衆のリアクションを利用した不合理な主張をする人物は正真正銘のポピュリストであると認定できます。
(3) 倫理操作(論敵の悪魔化)
【人格攻撃/人身攻撃 ad hominem / argumentum ad hominem】
論敵の人格を攻撃することで対人論証を行う。
【判断的語用に訴える論証 judgmental language】
侮辱的・名誉棄損的・軽蔑的語用によって人格を攻撃することで対人論証を行う。
【毒の混入 poisoning the well】
論敵の人格を貶める情報を流布することで対人論証を行う。
【ゴシップ gossip】
論敵のスキャンダルを暴露・喧伝することで対人論証を行う。
【ヒトラー論証 reductio ad Hitlerum】
論敵とアドルフ・ヒトラーの類似点を挙げることで対人論証を行う。
【バルヴァー主義 Bulverism】
論敵の主張を偽と仮定した上で、その根拠を人格に求めてその言説を否定するという循環論証を伴う対人論証を行う。
【言葉選び word choice / positive image word / negative image word】
善・中立・悪を連想させる言葉を都合よく使い分け、論者/論敵を善/悪とする倫理観を情報受信者に植え付ける。
【フレーズ選び phraseology】
善・中立・悪を連想させる語法を都合よく使い分け、論者/論敵を善/悪とする倫理観を情報受信者に植え付ける。
【評価型言葉 evaluating word】
主観的評価を内包した形容詞・副詞を根拠にすることで、論者/論敵を善/悪とする倫理観を情報受信者に植え付ける。
【説得的定義 persuasive definition】
論敵が不利となるように、曖昧な評価型言葉を組み入れて用語を定義し、権利・義務・罪などを偽造する。
【悪意に訴える論証 appeal to spite】
情報受信者が潜在的に持つ論敵に対する負の感情を喚起させる。
【悪口 name-calling】
根拠もなく論敵の悪口を言って論敵に対する嫌悪感を持たせる。
【レッテル貼り labelling】
論敵やその言説のネガティヴな一面に着目して悪のレッテルを貼り、論敵の人格や言説の品格を否定する。
【ステレオタイプ化 stereotyping】
先入観を基にして事物をネガティブな画一的タイプに区分することで蔑視する。
【併記による誘導 juxtaposition】
論敵に関する情報および論敵と無関係な負の情報を同時に提供し、論敵と負の情報に関係があるように連想させる。
【無意味な詳細の提示 irrelevant detail】
論敵に不都合な効果を及ぼす論点とは直接関係しない情報を提示することで論敵に対する嫌悪感を持たせる。
【サクラの仕込み packing the house】
論争会場を自説の支持者で満たし、絶え間なく応援させると同時に論敵を悩ます環境を作る。
【御用コメンテーター spin doctoring】
論敵に不利となる偏った情報を第三者に提供させることで、論敵に対する嫌悪感を持たせる。
【自信喪失操作 ad fidentia / against self-confidence】
論敵の主張に対して強い疑義を表明することで、その自信を揺るがす。
【スケープゴート scapegoating】
批判を集中させる対象を設定して情報受信者の不満を転嫁させる。
【問題の創作 manufactured problem】
実際には存在しない問題を創作してスケープゴートとすることで、情報受信者を誘導する。
築地市場の豊洲移転問題における倫理操作(悪魔化)
豊洲移転問題においては、過去の東京都知事・市場長・東京都・建築コンサルタント・ゼネコンなどが各種の悪魔化手法により極悪人にされ、情報弱者から敵視されています。仮にいかなる悪魔が問題に介在していようと、豊洲移転に関する科学的事実にはまったく関係のないことであり、この悪魔の介在を根拠に移転反対する人物は、正真正銘のポピュリストであると認定できます(笑)。
(4) 倫理操作(対人魅力のアピール)
【外見的魅力 beautiful people】
外見的魅力を高めることで情報受信者に好感を与える。
【同期 synchronism】
情報受信者と同じような感情や態度を示すことで好感を与える
【機嫌に訴える論証 appeal to flattery】
情報受信者の機嫌をとることで好感を与える。
【買収/返報性 bribery / material persuasion / financial incentive】
情報受信者に利益を贈与することで好感を与える。
【ウィスキー・スピーチ/八方美人 if-by-whiskey】
たとえ自説の主張と異なっていても、その時・その場所の情報受信者が支持している言説を唱えることで好感を与える。
【物理的近接性 physical proximity / geographical proximity】
情報受信者と出生地・居住地等の物理的距離が近いことを主張して親近感を与える。
【社会的近接性 social proximity】
情報受信者と価値観・専門性等の社会的距離が近いことを主張して親近感を与える。
【単純接触効果/熟知性 mere exposure effect】
情報受信者に論者の存在を繰り返し知覚させて親近感を与える。
【自己開示 self-disclosure】
情報受信者に自分に関する情報を提供して親近感を与える。
【個人崇拝 cult of personality】
情報受信者に理想的で英雄的な創作イメージを提供することで崇拝させる。
築地市場の豊洲移転問題における倫理操作(対人魅力のアピール)
「東京都の豊洲新市場計画が大問題になっています。発端は、日本共産党東京都議団による衝撃の独自調査。次々に新事実を明らかにしている党都議団。15年以上に及ぶこれまでの都議会内外でのたたかいがあらためて注目されています。[共産党web]」という自分に対する理想的で英雄的な創作イメージを提供するのが共産党の真骨頂です(笑)。この宣伝のために豊洲移転問題が利用されている可能性があります。
ポピュリズムの実例
情報歪曲手法としてのポピュリズムが最も利用されるのはやはり政治です。和洋織り交ぜてポピュリズムが行使された代表的な事例について、スローガン・敵視の対象・操作の対象・イデオロギーを整理すると次のようになります。
アンドリュー・ジャクソン(第7代米合衆国大統領)
スローガン:人民に支配させよう
敵視対象:ジョン・クインシー・アダムズ(対立候補)
操作対象:普通の市民(common man)
イデオロギー:ジャクソン流民主主義・黒人奴隷所有・インディアン虐殺・銀行廃止
アドルフ・ヒトラー(ナツィ第三帝国)
スローガン:総統よ命令を、我らは従う
敵視対象:マルクス主義・民主主義・ユダヤ民族
操作対象:ドイツ市民(中流階級)
イデオロギー:ゲルマン民族による全体主義世界の構築
土井たか子(マドンナブーム)
スローガン:ダメな物はダメ
敵視対象:自民党
操作対象:情報弱者(自称平和主義者)
イデオロギー:社会主義
細川護煕(新党ブーム・連立政権)
スローガン:政治家総とっかえ
敵視対象:自民党・既成政党(守旧派)
操作対象:情報弱者(自称改革派・非自民・無党派層)
イデオロギー:政治改革
小泉純一郎(小泉旋風)
スローガン:自民党をぶっ壊す
敵視対象:古い自民党(抵抗勢力)
操作対象:情報弱者(自称改革派)
イデオロギー:新自由主義・郵政民営化
鳩山由紀夫(民主党政権)
スローガン:政権交代
敵視対象:自民党・55年体制
操作対象:情報弱者(自称非自民)
イデオロギー:東アジア共同体・目立とう精神
橋下徹(維新ブーム)
スローガン:大阪都構想・身を切る改革
敵視対象:大阪都構想反対派、マスコミ、自称インテリ
操作対象:情報弱者(ふわっとした民意)
イデオロギー:新自由主義
ドナルド・トランプ
スローガン:アメリカ・ファースト
敵視対象:ヒラリー・クリントン、エスタブリッシュメント、マスメディア、ポリコレ、メキシコ、中国
操作対象:全米
イデオロギー:強く誇れる安全でグレイトなアメリカ
池田信夫さんが[日本に「トランプ」は出現するか]で指摘されている通り、日本のポピュリズムは一時的なブームにはなりますが、けっして長続きしません。これはポピュリストがポピュリズムという大衆操作戦略は持ち合わせていても、実現可能な政策を持っていないことから、すぐに化けの皮が剥がれるためと考えます。比較的長期間続いたポピュリズムの例外と言えば小泉首相と橋下知事ですが、これらの政権は賛否はともかく新自由主義という基本政策にブレがなかったことによるものと推察する次第です。
なお、究極に空回りしていますが(笑)、露骨な情報操作・心理操作・倫理操作(悪魔化)を堂々と行う蓮舫代表、山井和則議員、山尾志桜里議員を国会でのメイン・プレイヤーとする民進党は完璧なポピュリズム政党と言えます。民主党政権時のマニフェスト違反は大衆の記憶に未だ深く残っていると言えます[民主党だからできたこと]。
ポピュリズムのプロモーション
ポピュリズムを促進させる触媒の役割を果たすものとして、世論調査があります。多くの他者と同じ行動選択をしやすい【同調 conformity bias】という認知バイアスは世論調査の結果に大きな影響を受け、最終的には、支持者が多い言説を無批判に肯定して推論する【大衆に訴える論証/情勢に訴える論証 argumentum ad populum / appeal to the bandwagon / appeal to consensus】という誤謬に発展します。情報弱者は自分自身で物事を判断することが困難なため、他者と同調して自信満々になるわけです(笑)。
そんな中、興味深い調査結果が報告されました。米メディアの[ポリティコ]によれば「インタヴュアーが質問する電話世論調査」と比較して匿名性が高い「自動メッセージが質問する電話世論調査」や「インターネット世論調査」では大統領令に対するトランプ大統領の支持率が高くなるとのことです。これはまさに「隠れトランプ現象」と呼ばれるものです。
世論調査において、人間には調査側の期待に応えるよう回答する傾向があることが知られています。これは【ホーソン効果 Hawthorne effect】というものであり、匿名性が高くなるとトランプ支持が強まるということは、「メディアはトランプに反対している」ということを大衆に見透かされていることを示しています(笑)。このことから、調査方法を変えれば異なる世論調査結果が得られることがわかり、マスメディアが恣意的に世論調査結果を操作することが可能であると言えます。
さて、世論調査以上に恣意的に結果を操作できる可能性があるのが、テレビの街角インタヴューです。例えば、「関口宏サンデーモーニング」の街角インタヴューでは、世論調査結果と大きくかけ離れると同時に同番組の報道スタンスに合致した回答ばかりが紹介される傾向があります。これは同番組が自説に好都合な情報のみを与えることで事実を歪めるチェリー・ピッキングをしているか、インタヴューされる側がホーソン効果を発揮しているかのいずれかであると考えられます。世論調査結果が社会に浸透している場合、TVでインタヴューされる側はその多数意見を回答する傾向があります。これは社会が望ましいと考えているであろう意見を回答する【反応バイアス response bias】というものです。このホーソン効果と反応バイアスによって世論は誘導されていきます。
ホーソン効果と反応バイアスが作用するため、大衆は、世論調査やTVインタビューでマスメディアに「悪者」と認定された話題の人物に対して支持を表明することは稀です。ポピュリストが政敵を悪魔化し、マスメディアに訴えるのは明らかにこのためです。
なお、自分を悪魔化したマスメディアを悪魔化したトランプ大統領は究極のポピュリストです(笑)。トランプ大統領は選挙期間中にマスメディアに世論調査や番組で攻撃されましたが、その攻撃自体を社会は望ましく思っていないと大衆に意識させることでこれまでとは異なる反応バイアスを創出したと言えます。トランプ大統領のポピュリズムはおバカですが、これをおバカに批判したマスメディアがおバカであることが顕在化し、現在も大衆におバカと認識されていることはおバカな結末であり、おバカなマスメディアがおバカなトランプ大統領に対しておバカな批判をするたびに、おバカなトランプ大統領がおバカなマスメディアに対しておバカな批判を返すことを許容しています(笑)
築地市場の豊洲移転問題における世論調査
[朝日新聞社による18、19日の全国世論調査(電話)]によれば、『東京都の築地市場について、今後も豊洲への移転を目指すべきかを聞くと、「やめるべきだ」が43%で、「目指すべきだ」の29%を上回った。昨年10月の調査で同じ質問をした際には、「やめる」39%に対し、「目指す」40%と拮抗していたが、「目指す」が減り、「その他・答えない」が増えた。』とのことです。私が考えるに、豊洲移転問題を正確に理解していない人に電話で意見を聴いてもまったく意味がないものと考えられます(笑)。こういう調査がまさにポピュリズムを促進する原動力になっていると考えます。
ポピュリズムの萌芽
現在進行形のポピュリストであるとよく指摘されるのが小池百合子東京都知事です。確かに、小池都知事の言動や行動を分析すると、多くの点でポピュリストであることを示唆しています。
まず、スローガンや政策については極めて奇妙なことに既往のポピュリストのスローガンと酷似していると言えます。
「都民が決める。都民と進める。」→アンドリュー・ジャクソン「人民に支配させよう」
「冒頭解散」「大きな黒い頭のネズミがいっぱいいる」→細川護煕「政治家総とっかえ」
「東京都利権追及チーム」→小泉純一郎「自民党をぶっ壊す」
「過半数至上命題」→鳩山由紀夫「政権交代」
「知事給与半減条例」→橋下徹「身を切る改革」
「都民ファースト」→ドナルド・トランプ「アメリカファースト」
敵視の対象としては、石原慎太郎元都知事、舛添要一元都知事、都議会自民党を中心とする「大きな黒い頭のネズミ」、過去の豊洲市場長をはじめとする東京都職員の皆さん、森喜朗東京五輪組織委員会会長という明確な敵を作っています。
選挙中から「マスメディアを味方につける」と宣言している通り、大半のマスメディアは、真偽はともかく、小池都知事をヒロインであるかのように取り扱っています。アルビン・トフラー著「第三の波」を愛読書とする小池都知事の戦略は見事に成功していますね。
小池都知事のイデオロギーは「東京大改革」ということですが、「都政の無駄の解消」、「過去に対する責任追及」、「地中線化」の他は、私が不勉強なのかもしれませんが、「東京五輪の制服見直し」くらいしか見えてきません(笑)。そろそろ具体的な政策を明確に掲げていただかないと、ただのポピュリストとして評価されることになってしまうと心配しております。
なお、豊洲移転を選挙の争点にするというのも結構な話ですが、何を争点にするのでしょうか(笑)。めちゃくちゃ興味深いところです。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2017年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。