ドイツの政治が面白くなってきた

長谷川 良

ドイツで9月24日に実施予定の連邦議会選挙の前哨戦と見なされたザールランド州選挙の投開票が26日実施され、メルケル首相が率いる与党「キリスト教民主同盟」(CDU)が得票率40・7%で前回比(2012年35・2%)で5%以上票を伸ばし、第1党の地位を堅持する一方、シュルツ新党首の社会民主党(SPD)は29・6%と前回比(30・6%)で微減し、予想外の結果に終わった。この結果、支持率で低迷してきたメルケル首相のCDUが活気を取り戻す一方、新党首を迎えて再出発したSPD陣営は少なからずのショックを受けている。

▲独サールランド州のアンネグレート・クランプ=カレンバウアー首相(ウィキぺディアから)

同州議会選の1週間前の3月19日、SPDはベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のマルティン・シュルツ氏(61)を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任党首に選出したばかりだ。複数の世論調査では、シュルツ氏がメルケル首相を抜いてトップに走っているという報道も出てくるほど、シュルツ効果への期待が大きかった。それだけに、ザールランド州議会選の結果は、SPDだけではなく、メディアにとってもちょっと想定外だったわけだ。

シュルツ党首はザール州議会選の結果について、「連邦議会選挙まで長い道が控えている、選挙戦はマラソンであり、100メートル競走ではない」と述べ、新党首をメシアのように考えてきた党員を叱咤激励している。

ところで、独西部の小州ザールランド州議会選結果から「メルケル首相、CDUの復活」と早急に予測することは間違いだろう。オーストリア代表紙「プレッセ」は28日付で「ザールランド州議会選結果は即連邦議会選のメルケル首相勝利に繋がらない」とし、その5つの理由を挙げている。

①有権者に高い評価を享受してきた同州のアンネグレート・クランプ=カレンバウアー首相(CDU)の個人的人気。
②SPDは選挙戦で「左翼党」との連立(赤・赤連合)を示唆し、有権者に懸念を誘発させた
③州選挙の争点は連邦の諸問題とは関係が薄いこと(例・難民問題)
④州の「緑の党」は路線問題で対立を抱え、得票率4・0%に終わり、州議会の議席を獲得できなかった。
⑤AfDは得票率6・2%を獲得し、州議会に進出

ザールランド州のカレンバウアー首相は党派を超え、評価されている政治家だ。シュルツ効果はその個人的人気を打破出来なかったわけだ。プレッセ紙は「シュルツ効果ではなく、AKK効果の勝利」と表現しているほどだ。また、メルケル首相の難民政策に対する批判の声は高いが、ザールランド州選挙では難民問題より州内の諸問題に有権者の関心があったわけだ。

ドイツでは5月7日、シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州、同月14日にはノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の州議会選挙が行われる。特に、人口最大の州、NRWの選挙動向はシュルツ氏の人気が本物かどうかを占う絶好の機会となる。

シュルツ党首のSPDは5月の2つの州選挙に向け党内の体制を引き締めなければならない。一方、CDUはザールランド州選勝利の勢いを5月の2つの州議会選につなぎ、9月の連邦議会選に臨みたいところだろう。いずれにしても、ドイツの政治が面白くなってきた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。