東芝は聖域なき改革と行うといいつつ、防衛部門を「聖域」として残すようです。
恐らくは色々なしがらみからでしょう.かつてニッサンが経営危機に陥ったときは、ゴーン社長はロケット部門をIHIに売却しました。
ところが、東芝は虎の子のメモリー事業も事実上売却するのに、たいした利益もでず、今後も売り上げが拡大する訳でもない防衛部門を温存するということです。
東芝の経営陣には当事者能力も意識も欠如しているとしか言い様がありません。つまりは無能です。
東芝、防衛分野の半導体事業は継続 安保に配慮(日本経済新聞)
東芝による事業売却を巡り、東芝が探知レーダーなど防衛分野の半導体事業は継続する意向を防衛省に伝えていたことが30日、分かった。
東芝の半導体を組み込んだレーダーは探知能力にすぐれ、海上自衛隊の最新鋭哨戒機「P1」や弾道ミサイルを追尾する航空自衛隊の警戒管制レーダーに使われている。こうした半導体は特注品で、東芝内のカンパニー「インフラシステムソリューション社」内の事業部が製造している。
同カンパニーは東芝傘下に残るため、防衛用の探知レーダーや情報収集機器向けを扱う部門も存続する。東芝は防衛装備庁に同事業は売却しないと伝えたほか、分社化した半導体メモリー事業の売却後も技術者流出は防ぐと説明している。
東芝社長「聖域なき事業売却検討」 米ウエスチングハウスWH破産法申請(日本経済新聞)
綱川社長は「株主や投資家など全てのステークホルダーに迷惑と心配をかけたが、今後の健全な経営に向け、海外原子力事業のリスク遮断を確実なものにしたい」と語った。
「一時的には追加損失が膨らむが、半導体メモリー事業への外部資本投入に加え、聖域なき事業売却を検討していく。『新生東芝』として安定的な利益の確保と財務基盤の強化に全力で取り組む」とし、エレベーターやビル管理などの社会インフラ事業を軸とした事業の再構築を進める。
率直に申し上げて、東芝にできることは他のメーカーにもできます。
しかも空自の偵察ポッドでも明らかになりましたが、能力が不足している装備も多々あります。
ご案内のポッドは国産といいつつ、中身は殆ど外国製。しかもシステムインテグレータとしての能力が低いので空自に採用されなかった。通常大概な屑でも黙って防衛省は引き取るのですがね。
例えば81式短距離地対空誘導弾なんて、発射まで時間がかかりすぎ、実戦では使い物にならない。
しかも、試射もろくにしたことがなく、値段は他国の数倍です。
同じ分野でそれぞれ縄張りをもって小さな商売しているから、R&Dの費用もまともに投入できない。
本体に比べて売り上げが小さいので、エース級の人材は入れない、他国に比べて一人の設計者が一生に開発できる装備は極めてすくない。
つまり本業に対する、スピンオフ効果は殆ど期待できません。
東芝は今度の決算で国内メーカー最大の1兆円を超える赤字をだしました。
しかもこの先10年は、東芝はまともに利益を出すことは難しく、防衛部門に対する投資もまともにできないでしょう
防衛部門を温存している余裕なんぞないはずです。
東芝は中国とか外国企業の手に防衛部門の技術が流出することを防ぐことを理由にしていますが、別に国内企業に売ればいいじゃないですか。そうすれば小さい規模の商売が乱立している、日本の防衛産業の再編にも弾みがついたでしょう。
要はOBやら天下りやらのしがらみがあって、手をつけられなかったということです。
いっそのこと防衛省が5年くらい東芝からの調達を止めればいいんです。そうすれば撤退せざるをえないわけです。
今回の件では防衛装備庁、経産省の指導力も問題とされて然るべきだと思います。
こういう会社を税金使って生き延びさせようというのは犯罪的ですらあります。こういう企業は潰れて淘汰されるべきです。
安倍内閣が力こぶをいれて企業統治のガイドラインを作らせたのがいわゆる「伊藤レポート」です。
東芝はその優等生でした。ところこの有様です。
率直に申し上げて、「伊藤レポート」はアメリカ背筋資本主義の猿まねをしようというものです。
るROE(自己資本利益率)を増やせ、社外取締役をいれろ、株主の権利だけを守れと。
その結果無理な短期の利益を出そうとして不都合な欠損を隠蔽、粉飾決算をしたけども、社外取締役が無能でそれを見抜けなかった。
現在の米国資本主義は19世紀の資本主義そっくりで、資本家だけが肥え太るのが正しいというシステムです。
四半期ごとの利益を獲得するために、長期投資を行わない、工場を売却する、利益が出ていてもリストラして、それで儲かったら株主とストックオプションで経営者が山分けです。
内部留保が少なくなるので、中長期的な企業の体力はなくなる。R&Dがまともにできなくなるので、ベンチャー企業を買収する。
ですから米国の防衛産業は基礎研究を減らし、既存の兵器の改良ばかりでしのいでおります。
年季の入った開発者や生産ラインの人間を安易にレイオフするのでさらに開発力は落ちています。
結果、中間層が下層に転落し、下層労働者が職を失う。
これが「正しい経済政策」であるとアメリカ政府やメディアは主張してきました。これの対する不満が爆発したのがトランプ大統領の誕生やサンダース候補の登場です。
「伊藤レポート」の提言を愚直に行うならば、日本企業はその強みを失い、東芝のような企業が続出するでしょう。
これに対して警鐘をならしているひとも少なくありません。原 丈人氏もその一人です。
この本を読めばアメリカ式株主資本主義がどれだけ経済を歪め、国民を不幸にしているか分かります。
そして、原 丈人は安倍内閣の内閣参与でもあります。
こういう人から話を聞いても、アホノミクスを止めようとしない。
アベノミクスで儲かったのは一部の輸出が多い大企業と株で儲けた投資家だけです。
その株式投資家の7割は外国人であり、もうけは外国に貫流されました。残る国内投資家も生保などの機関投資家が殆どで個人投資家は極めて少ない。
それでいて、円安でインフレ誘導して物価があがり、増税をし、社会保障費を大幅に引きあがたのですから、GDPの6割の消費が増えるわけがない。しかも税金をジャブジャブ使って国の借金を増やしている。将来は大増税、社会頬消費の負担増、年金の減少を警戒する庶民が金を使うはずがない。
2月の実質消費支出、前年比3.8%減 市場予想2.1%減(日本経済新聞)
雇用環境が改善したのはアベノミクスの手柄ではなく、就労人口の減少が原因です。
つまり儲けたのは外国人投資家と機関投資家だけ。これで景気がよくなるわけがないでしょう。
東芝問題を見るときに安倍政権のアメリカ資本主義のサルまね政策にも注意するべきです。
おサルが政権と経済を運営しているんですから、こんな危険なことはありません。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2017年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。