キャッシュの扱いこそ重要

「黒字倒産」というのは、ご存知ですよね。
例えば、あなたの会社が8月1日に500万円の製品を取引先に納品したとしましょう。
「発生主義の原則」が採用されているので、納品日である8月1日に500万円の売り上げが計上されます。

ところが、支払いが当月締めの翌月払いだと、9月末日になってようやく500万円が現実に支払われるので、2ヶ月間は帳簿上の売り上げだけでキャッシュはゼロの状態が続きます。

諸経費を差し引いた帳簿上の利益が出ていても、現実には利益に相当するキャッシュはありません。
その2ヶ月間に銀行に返済しなければならないキャッシュが作れなければ、手形不渡りになったりします。これが典型的な黒字倒産です。

納品代金の支払いを手形でもらっていれば、あなたの会社の取引銀行の融資枠でその手形を割り引いてもらって(額面500万円の手形から利息を引いた額)のキャッシュを手に入れることができますが、銀行の融資枠がないと怪しい金融業者に高利で割り引いてもらうしかありません。

かつて日産自動車が、車を販売するとき支払い期日をしっかり決めて履行するようにしたところ、銀行からの短期借入金を大幅に圧縮できたというウソみたいな話があります。まさにチリも積もれば山。大規模な企業ほどキャッシュの管理が重要なのです。

逆に、払う方はできる限り遅く払った方が有利です。
住宅ローンを組みようなケースは無理かもしれませんが、住宅や建造物は本当にトラブルが多いのです。今時、軽自動車しか入らない車庫を作ったり、雨漏りする家を建てる業者も決して少なくありません。企業の倉庫建設などでも結構トラブルが多く、「日本の建築業界は大丈夫なのだろうか?」と感じることが頻繁にあります。

本格的な建築紛争となると、細かな数字や図面を調査したり原材料価格や数量が問題となったり極めて複雑な紛争が多岐にわたるなど解決には費用と時間がかかります。気前よく代金を支払ってしまうとなかなか修繕に来ない業者もたくさんいるので、一通りじっくり検証してから代金を支払うことをお勧めします。

時には、「提訴リスクの転換」(私の造語です)という高等戦術を用いることも検討してみましょう。
昔、私が入居していたマンションの隣室がひどい騒音を出すので、「お静かに願います」と注意したら逆ギレされて怒鳴り込まれた経験がありました。

管理会社に何度も対処を求めても馬耳東風、やむなく「御社には管理責任があり管理費も徴収しているにもかかわらず適切な対処を怠っています。隣室の日々の騒音と逆ギレによって当方は精神的損害を受けておりその見積額は400万円になります。お支払いいただけない場合は当月以降の賃料から相殺します」という趣旨の内容証明を出しました。

現実に賃料不払いをしたところ、さすがに焦った管理会社が隣室住人を脅したのか、騒音がピタリと止まりました。

「やればできるじゃないかー」ということで賃料を支払うようにしましたが、相手が積極的に動かなければならない状態(場合によっては提訴しなければならない状態)を作ることが「提訴リスクの転換」です。

「修理しないなら代金を支払わない」という場合にも使えるでしょう(もっとも、建築約款には高額な遅延損害金の定めがあるので、不具合場所を特定して相殺の意思表示をする等、必要な手続を怠らないよう注意しましょう)。

いずれにしても、気前のいい好人物ほど不条理な目に遭うケースが、この世知辛い世の中にはたくさんあるのです。不払いはいけませんが、納得してから支払うくらいの余裕と図太さが欲しいものです。

荘司 雅彦
2017-03-16

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年4月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。