SPDの救い主が“偽メシア”に降格?

フランスで大統領決選投票が実施された7日、隣国ドイツ最北部に位置するシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州(州都キール)で州議会選挙が行われ、メルケル首相が率いる「キリスト教民主同盟」(CDU)が得票率を伸ばす一方、シュルツ新党首の社会民主党(SPD)は得票率を落とし、敗北を喫した。

▲100%の支持を得て党首に選出されたシュルツ氏(SPDの公式サイドから)

ドイツでは14日にはドイツの州で最大人口を誇るノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の州議会選挙が行われる。シュルツ党首はザールランド州、そしてシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州の2州議会選で敗北しただけに、後がない。NRW州選挙で敗北するようなことがあれば、SPDはシュルツ新党首のもと3戦3敗となり、9月24日の連邦議会選へ向け最悪のスタートを切ることになる。

SPDは3月19日、ベルリンで臨時党大会を開き、前欧州議会議長のマルティン・シュルツ氏(61)を全党員の支持(有効投票数605票)でガブリエル党首の後任党首に選出し、CDUのメルケル首相の4選阻止を目標に再出発したが、その直後に実施された2州の議会選で敗北。欧州議会議長からドイツ政界に乗り込んできたシュルツ新党首への期待(シュルツ効果)はここにきて深刻な挑戦を受けている。

第1戦のザールランド州議会選は3月26日実施され、メルケル首相が率いる与党CDUが得票率40・7%で前回比(2012年35・2%)で5%以上票を伸ばし、第1党の地位を堅持。一方、シュルツ新党首のSPDは29・6%と前回比(30・6%)で微減し、予想外の結果に終わった。この結果、支持率で低迷してきたメルケル首相のCDUが活気を取り戻す一方、新党首を迎えて再出発したSPD陣営は少なからずのショックを受けた。

第2戦のシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州議会選挙では、与党のSPDが得票率27・2%で2012年の前回選挙比で約3・2ポイント減。一方、メルケル首相が率いるCDUの得票率は約32・0%で前回比で1・2ポイント増だった。(同州政府はSPD、「同盟90・緑の党」、そして少数民族系政党「南シュレースヴィヒ選挙人同盟」(SSW)の3党連立政権)。

そして今月14日、最大の人口(1800万人)を有するNRW州議会選挙だ。第1戦、第2戦は小さな州だったがNRW州(州都デュッセルドルフ)は最大州だ。そこでシュルツ党首のSPDが敗北するようなことがあれば、SPDの連邦議会選への期待は一挙に萎んでしまう。ちなみに、NRW州はSPDのハンネローレ・クラフト首相が「同盟・緑の党」と連立政権を樹立している。SPDにとって防衛戦だ。

シュルツ氏は党臨時大会で党の救い主(メシア)のように大歓迎され、100%の党員の支持を受けて新党首に就任したばかりだ。欧州議会議長を5年間勤めてきたシュルツ氏はドイツ政界では新顔だが、その発言力、プレゼンス感はSPD内では断トツだ。それだけに、SPDはメルケル首相から連邦首相ポストを奪い返す指導者として新党首に大きな期待を寄せてきた経緯がある。

いずれにしても、メシアはいつの時代でも容易には受け入れられないものだ。NRW州議会選でSPDが敗北するようだと、シュルツ新党首は“偽メシア”として党内から批判の声にさらされるかもしれない。一方、4選を目指すメルケル首相は昨年9月18日のベルリン市議会選の歴史的敗北から完全に立ち直り、9月の連邦議会選へ向け一層勢いをつけたいところだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。