大学受験戦争がなくなった今、中学受験の勉強は有益

荘司 雅彦

先般「一流の育て方」(ダイヤモンド社)を読んだところ、小さなお子さんには(できれば)中学受験勉強をさせた方がいいという結論に達しました。

もちろん、塾の費用も決して安くないので経済的に無理をする必要は全くないのですが、(高価なランドセルを買ってもらうより)親世代から援助を受けてでも勉強をさせてあげた方がいいと考えました。
本書では次のような指摘がなされています。

親が子供に影響を与えることができるのはせいぜい小学生くらいまでで、中学生以降になると友達の影響の方が強くなってしまいます。
ぶっちゃけ、親がどれだけ頑張っても「勉強しない親友」ができてしまうとアウトということです。
学習習慣や読書習慣は自然に身につくものではないので、「自主性に任せた方がいい」という言葉は全国1000万人の普通の親御さんは決して鵜呑みにしてはいけません。小学生の時につけた学習習慣や読書習慣は、その後の人生に大きな影響を与える大事なプレセントです。

とはいえ、子供は親の姿を見て育つので、「勉強しろ」と言うだけで自分たちだけテレビを見て笑っているようではダメです。親自身がしっかり読書したり子供と一緒に勉強することによって子供のモチベーションが維持されるのです。
先々の将来のことばかり話しても子供には実感が湧かないので、優秀な成績を取った時はお小遣いという人参をぶら下げるのも効果的です(かのSAPIXは、サピシというシールで生徒たちのモチベーションを上げています)。

また、金銭感覚は人生を左右するのでしっかり身に付けさせるようにしましょう。自家用機で四国の実家から東京の家庭教師のところまで通った御曹司は、ギャンブルで100億円以上使い込み、特別背任罪というおまけまでつきました。

以上が、学習に関する本書の主な主張です。
なお、本書には学習面以外でも大いに役に立つ情報が入っています。
惜しむらくは、効率的学習のための方法論が欠けているという点でしょうか?
親世代(特に父親)は、「小学生の頃から勉強しなくても自分はしっかり一流大学に入れたのだから」とよく口にするし、私自身も全く同じ感覚でした。

しかし、私たちの世代には「大学受験戦争」という関門があったことを忘れてはなりません。
当時の大学受験は一種の社会現象となっており、大学受験を素材にした小説や漫画がたくさん出ていました。大手予備校に地方出身者専用の寮を完備し、毎年の受験生の比率では浪人生の方が現役生よりも圧倒的に多数でした。
このように、私たちの世代は大学受験で学習習慣をつけることができたので、のんびりした小中時代を過ごしても大丈夫だったのでしょう。

ところが今は、浪人生が少なくなったことと大学が多くなったことで、大学受験は学習習慣を身に付ける機会ではなくなりつつあります。親世代は、そのような時代の変化をしっかり認識すべきでしょう。

仮に志望中学に合格できなくとも受験校すべての受験に失敗しても、中学受験勉強は役に立つようです。実際、男子の有名校(開成やラ・サール)では、(中学入試で失敗して)高校から入学した生徒の方が大学受験で好成績を収めるという話を何人かに聞いたことがあります。合否は時の運ですが、小学生の時に培った学習習慣と実力は決して無駄にはなりません。

中学受験勉強のパフォーマンスを試すために一度だけ中学時代の娘に駿台全国模試を受験させたら8番だったと記憶しています(四谷模試の最終回が確か56番だったので、中学受験生のレベルの高さがわかりました)。
もっとも、中学受験や大学受験で素晴らしい成果を収めたとしても、それで素晴らしい人生が約束される訳では決してありません。

一流大学を卒業していると「一流大卒のくせにこんなこともできないのか?」というプレッシャーに潰される人も少なくないようです。しかし、子供本人の人生は子供自身が切り開くしかないのです。親がしてやれるのは社会に巣立つまで。とりあえず自力で生きていける土俵に立たせれば、後は過大な期待をしないことでありましょう。そこまでは親の責任ではありませんから。

荘司 雅彦
PHP研究所
2013-01-23

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。