【映画評】メッセージ

渡 まち子

突如、地球上の各地に謎の巨大球体型飛行物体が現れる。彼らがどこから来たのか、目的な何なのか、何もかもが不明だった。言語学者のルイーズは、彼らの言語を解読し、その意図を探るように軍から要請される。黒い煙状の表意文字を解読するうちに、ルイーズは、彼らが人類とはまったく異なる時間の観念を持っていることに気付く。物理学者のイアンと共に、彼らと友好的に交信しようとするルイーズだが、各国は彼らを敵とみなし攻撃の準備を始める。ルイーズは、地球を救い、彼女自身の思いを伝えるため、思い切った行動に出るが…。

未知なる飛行物体のメッセージを読み解くことで、人間の存在意義を問う異色SF「メッセージ」。原作は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」だ。人間に対して友好的にせよ、攻撃的にせよ、人類が宇宙人と遭遇するSF映画は、過去にも多く作られた。だが本作は、ビジュアル、ストーリー、観念的かつ崇高な志という点で、今までのどの映画ともテイストが異なる。言語学者のルイーズは、幼い娘ハンナを病で失ってから深い喪失感の中にいる。そんなルイーズの母性にも似た寛容が、未知のエイリアンに対し、根気強くコンタクトを求め、攻撃ではなく別の可能性を見出すという設定は非常に興味深い。この物語の主人公がヒーローではなく、ヒロインであることに大きな意味があるのだ。縦型のアーモンドのような宇宙船の造形や、7本脚(ヘプタポッド)のエイリアンのビジュアルは独創的で、黒い煙状のサークル型の表意文字は、美しいアートのようである。

ルイーズが感じ取る、時間を逆行するような感覚と、やがて知る驚きの真実は、少々複雑で分かりにくいのだが、悲しみの中でも彼女が生きてきた意味が解明され、深い感動を味わえるだろう。ルイーズは人生や宇宙、時間という概念の真実を知り、混乱しながらも、未知なるものを受け入れ、愛することを止めないと決意する。このことが、本作を、宇宙人との遭遇という平凡なSF映画から、深淵な人間ドラマへと昇華していった。派手なバトルやヒロイックな戦闘などは登場しない。だが、各国が一触即発の非常事態に陥る愚かさと、パーソナルな悲しみや迷い、それでも保ち続ける理性と愛をも描くことで、現実を巧みに照射している。エイミー・アダムスをはじめ、実力派俳優たちの丁寧な演技が、深い人間ドラマを紡ぎ、生きることの意味を問う壮大な物語を作り上げた。またしても俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の才能に驚かされた1本だった。
【85点】
(原題「ARRIVAL」)
(アメリカ/ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督/エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー、フォレスト・ウィテカー、他)
(独創的度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年5月19日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式ウェブサイトから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。