“鮮度”を失ったポピュリストの「苦悩」

長谷川 良

時間の過ぎ去るのは早い。政治家のキャリアも例外ではない。最近、ビクッとする呟きを聞いた。「彼には新鮮味がなくなってきたね。彼から老いを感じる」というのだ。「誰」のことかというと、オーストリアの極右政党「自由党」のハインツ・クリスティアン・シュトラーヒェ党首だ。彼はまだ47歳だ。野党第1党の党首として選挙戦の度にこれまで台風の目となってきた政治家だ。そのシュトラーヒェ党首に「年を取った」という印象は決して偏見や皮肉からではないだろう。それなりの理由は考えられるからだ。

▲極右政党「自由党」のシュトラーヒェ党首(2017年5月1日、メーデーの党集会で 「自由党」公式HPから)

5月に入り、オーストリアの政界では大きな変化があった。与党第2党、中道右派「国民党」の党首に30歳のクルツ外相が就任し、野党第2党「緑の党」の党首を9年間務めたエヴァ・グラヴィシュ二ク党首が個人的理由から党首を辞職し、新しい党首と選挙筆頭候補者の2人組党体制が発表されたばかりだ。

与党第1党の「社会民主党」党首のケルン首相はファイマン首相の後継者として実業界から政界入りして今年5月17日でやっと1年目を迎えたばかりだ。要するに、オーストリアの主要政党では指導者の交代、世代の交代が急速に行われてきたのだ。
その中で「自由党」のシュトラーヒェ党首だけが変わらない。変わらない、ということは一見安定しているともいえるが、有権者にとって新鮮味が欠ける、というイメージとなって跳ね返ってくるわけだ。

シュトラーヒェ党首はフランスの「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首、オランダの「自由党」のヘールト・ウィルダース党首らと共に、欧州の代表的極右政党の指導者だ。
新聞に掲載された同党首の顔写真をみると、数年前のような鋭さや勢いはなくなった。悪く言えば、初老を迎えた人間のような感じすらする。外観的には、メガネをかける機会が増えた。結婚したこともあってか、顔もふっくらとして前より太った感じだ。あれこれ考えると、極右政党を引っ張る同党首はやはり年をとったのだ。

シュトラーヒェ党首はヨルク・ハイダーの流れを組む「自由党」に入党して以来、着実に力をつけてきた。一時期、党内で路線対立があったが、2005年4月から12年間、党をまとめてきた。選挙の度に得票率を増やし、オーストリアでは「国民党」を抜いて第2党の勢いを有する政党に発展してきた。10月15日の総選挙では第1党、政権獲得の夢も決して非現実的ではない。

ちなみに、「自由党」内で後継者問題がまったくなかったわけではない。大統領候補者として決選投票まで進出したノルベルト・ホーファー氏はシュトラーヒェ党首の後継者と受け取られているが、ホーファー氏自身「自分の夢はシュトラーヒェ党首を首相にすることだ」と言明し、後継者の話を完全に否定している。

ところで、シュトラーヒェ党首から新鮮味が感じられなくなったのは決して外観的なイメージだけではない。外国人排斥、オーストリア・ファーストを標榜し、厳格な難民受け入れ政策を主張して支持を伸ばしてきた「自由党」だが、その主張自身に新鮮さがなくなってきたからだ。その主因は「国民党」党首に就任したばかりのクルツ外相だ。

シュトラーヒェ党首曰く、「クルツ外相の難民政策はわが党の政策の完全なコピーだ。彼はコピーの天才だ」と嘆く。客観的にいえば、クルツ外相の難民政策は「自由党」よりも厳格だ。だから、「自由党」が難民の受け入れを批判してとしても、クルツ外相を超えた内容にはならない。難民受け入れに不安を感じこれまで「自由党」を支持してきた国民はクルツ外相の「国民党」に票を投じる可能性が高まってきたのだ。シュトラーヒェ党首は心穏やかでいられない。

中道右派政党の右派化傾向はオーストリアだけではない。オランダでも見られる、同国の総選挙(下院)では、マルク・ ルッテ首相が率いる「自由民主国民党」(VVD)が躍進したが、ルッテ首相は選挙戦でヘールト・ウィルダース党首の極右政党「自由党」の反移民政策を凌ぐ過激な政策を主張し、オランダ社会に統合できない移民は「出ていけ」という主張し、話題を呼んだ(「極右政党が“大躍進”できない理由」2017年5月9日参考)。

「自由党」はここにきて党独自の経済政策を掲げ、国民にアピールしていこうと腐心している。具体的な政策はまだ公表されていないが、欧州連合(EU)のブリュッセル主導の政策を批判してきた「自由党」としては、代案としてEUとの関係見直し、グロバリゼーションでの国民経済の在り方などについて有権者にアピールできる経済政策を考えているわけだ。

人は古いものより新しいものに関心をもつ。だから、時間の経過と共に鮮度を失った政治家は国民の支持を失い、姿を消していく。欧州の代表的ポピュリスト、シュトラーヒェ党首は30歳のクルツ国民党党首の登場に焦りを感じる一方、国民は同党首に老いを感じだしてきたのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。