【映画評】美しい星

渡 まち子

53歳の大杉重一郎は、予報が当たらないことで有名な気象予報士。ある夜、突如眩しい閃光に包まれ、空飛ぶ円盤(UFO)と遭遇する。その日を境に重一郎は、自分は火星人だと自覚し、人類を救う使命に目覚める。父・重一郎の覚醒と時を同じくして、大杉家の面々にも異変が。野心にあふれるフリーターの長男・一雄は水星人に、美人すぎて周囲から浮いている大学生の長女・暁子は金星人に覚醒。空虚な毎日を持て余す主婦の母・伊余子だけは覚醒せず地球人のままだったが、水を売るネットワークビジネスにのめりこんでいった。宇宙人として覚醒した大杉家の面々は、それぞれの方法で地球を救おうと奮闘するが…。

宇宙人として覚醒したある平凡な一家が地球を救うために奮闘する姿を描く異色SFドラマ「美しい星」。原作は、三島由紀夫が1962年に発表したSF小説で、故・大島渚監督をはじめ、内外の有名監督が映画化を望んでいた作品と言われている。小説の舞台は60年代で、東西冷戦や政治の季節が背景だが、本作では時代を21世紀の現代に置き換えて、地球温暖化や爆発的人口増加など、タイムリーな設定が施され、一種の終末映画として描いている。こう書くと、大仰なSFに思えるが、ヘラヘラとしたお天気キャスターの重一郎をはじめ、大杉家の面々がやる“地球を救う作戦”は、どこかユルくズレていて、笑いを誘うものだ。映画冒頭でのレストランでの食事シーンからこの家族が崩壊寸前であることが分かるが、そんな、バラバラだった家族が、宇宙人として覚醒することで、ひとつにまとまり、真の家族として再生していくという家族ドラマが裏テーマである。三島由紀夫自身が“へんてこりん”と形容したこの小説のテイストを壊さずに映画化したのが何よりも収穫だ。しかも、この突拍子もない物語の登場人物に、ひょうひょうとしたリリー・フランキーをはじめ、若手アイドルをちゃっかり組み込んで、スター映画に仕上げてしまった点を評価したい。円盤の閃光の先に何が見えるのか。平凡な一家が地球を救うことができるのか。それは映画を見て確かめてほしいが、ひとつだけ言えるのは、映画は、ちっぽけな人間と、その営みを全力で肯定しているということだ。正直、「?」や「!」が何度も頭に浮かぶ。だが、1960年代も21世紀も、共に不安な時代。わからないことだらけの中、私たちは希望を信じて生きているのである。
【65点】
(原題「美しい星」)
(日本/吉田大八監督/リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、他)
(換骨奪胎度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年5月26日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。