米空軍のリーダーシップは「強さ」より「癒し」優先だった!

真田 茂人

米空軍公式Facebookより(編集部)

軍隊という組織に皆さんは、どんなイメージを持っているだろうか。

私が思い浮かべるのは、少し古いがリチャード・ギア主演『愛と青春の旅だち』という映画のシーンだ。鬼軍曹の激烈なシゴキの連続。この映画を観た時、とてもこんな仕打ちには耐えられない。私には絶対無理な組織だと思ったものだ。

だから、パリッとした制服に身を包んだ中将の言葉を聞いた時には、心底驚いた。

これは、私がサーバントリーダーシップの国際カンファレンスに出席した時の出来事。サーバントリーダーシップとは、「リーダーである人は、まず相手に奉仕し、その後相手を導くものである」というリーダーシップ哲学だ。人を自分の意のまま操りコントロールする支配的なリーダーシップの真逆の考え方だ。

サーバントリーダーシップの特徴を表す「10の特性」というものがあるが、他のリーダーシップにはあり得ない特性が「癒し」だ。リーダーはメンバーを癒すことが重要とされている(参照:NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会サイト)。

このリーダーシップを学ぶために、毎回カンファレンスに管理職が20名以上参加しているというので、声をかけて話しを聞いてみたのだ。

私:「なぜ、軍隊でサーバントリーダーシップなんですか?必要ないし、合わないのでは?」
私の失礼な質問にも、中将はにこやかに話してくれた。

中将:「わが米国空軍は人を大切にする組織なんですよ」
私:思わず「本当ですか?」という突っ込みにも

中将:「確かに以前は違いましたし、海軍や陸軍は我々とは随分違うかもしれません。空軍は比較的歴史も浅いし、進んでいるんですよ。」
私:「でも、空軍が歴史が浅くても軍隊であることには、変わりはないですよね。軍隊は‘人を大切に‘なんて甘いことを言える組織じゃないですね。どういうことですか?」

中将:「いえ、軍隊だからこそ、人を大切にして、信頼関係を築くことが大事なんです。」
私:「よく理解出来ないんですが?」

中将:「いいでしょう。ある悲しい出来事をお話ししましょう。ベトナム戦争の時のことです。当時の空軍は、‘人を大切にする組織‘ではありませんでした。正直、上官と部下との間の信頼関係も壊れていました。その結果、何が起こったか?本当に悲惨なことです。恐ろしい……」
私:「何ですか?」

中将:「戦場で部下に撃たれて亡くなったと思われる上官がいるんです」
私:「えーっ!本当ですか?」

中将:「激しいシゴキで恨みを買っていたのかもしれません。そんなことがあっては、敵と戦うどころではありません。部下にしても、信頼してない上官の命令で命をかけて突撃するのは耐えれないことです。このベトナム戦争の教訓から、互いの信頼関係は必須であり、そのために、‘人を大切にする組織‘を目指しはじめたのです。」
私:「・・・。でも、戦場でサーバントリーダシップなんて言ってられないですよね?」

サーバントリーダーシップは、メンバーを主役とし、リーダーはメンバーをサポートしていく考え方であり、リーダーが主役でメンバーはリーダーのために存在するという従来の考え方の逆である。

中将:「いえ、戦場においても、一人ひとりの兵士が主役であることには変わりはありません。もちろん、上官が作戦を考え命令を下しますが、最前線で活躍するのは兵士であり、上官はそれをサポートしなくてはなりません」
「それに、実際に我々が実際の戦場にいる時間はわずかなものです。大半の時間を訓練に費やすのです。それが日常です。その日常においてどれだけ信頼関係を構築できるかが重要なのです」

私:「でも、軍隊の上官には強さや威厳が必要なのではありませんか?」
中将:「必要なことは、信頼関係の構築でした。そのためには、先ほどのセッションでもあった「癒し」も重要なことです。もちろん簡単ではありません。だから、こうやってサーバントリーダーシップを学び、自分のリーダーとしての在り方は向上させることを続けているのです。上官が信頼関係を構築すれば、結果としてそれは尊敬や威厳になるのです」

30分にも満たない会話だったが、私にとっては強烈なインパクトだった。
軍隊でさえ、「信頼関係構築」や「人を大切にする組織づくり」に努力しているのに、一般企業は、ここまで真剣に考えているだろうかと考えさせられた。

ちなみに来年にもトム・クルーズのトップガンの続編が公開されるという噂があるが、トップガンの舞台は空軍でなく、海軍である。

真田 茂人
リーダーシップ教育コンサルタント 日本サーバントリーダーシップ理事長
アゴラ出版道場二期生

早稲田大学卒業後、リクルート、外資系金融機関、人材サービス会社設立を経て、2001年に「サーバントリーダーを育成し、『良い組織』創りを支援する」というビジョンを掲げる㈱レアリゼ設立、代表取締役就任。日本を代表する企業の幹部教育や組織開発を数多く手掛ける。2004年NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会を設立。理事長就任。サーバント・リーダーシップの普及を通じ、日本を再生し、グローバルに通用するリーダー育成にも力を入れている。

著書: 『サーバント・リーダーシップ実践講座』『星野リゾートの事業戦略はなぜ社員に支持されるのか』ほか多数。

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