イマームが「反テロ宣言」に署名へ

欧州ではイスラム過激派テロの脅威が広がっている。英国ロンドン中心部のロンドン橋で6月3日、3人のテロリストがワゴン車で歩道を暴走し通行人を轢き、その後、車から降りて近くの繁華街「Borough Market」で人々を刃物で襲撃するテロ事件が起き、7人が死亡、48人が負傷して病院に搬送された。同国では過去3カ月、3件のイスラム過激派テロ事件が起きている。隣国フランスではパリやニース、そしてドイツではベルリンやミュンヘンなどでテロ事件が発生している。

▲ウィ―ンの「イスラム・ドナウセンター」(ウィキぺディアから)

その度に、イスラム教関係者は、「イスラム教とテロはまったく相反する。イスラム過激派の聖戦思想は真のイスラム教ではない」と弁明してきた(「“本当”のイスラム教はどこに?」2015年1月24日参考)。それに対し、著名な神学者ヤン・アスマン教授は、「唯一の神への信仰( Monotheismus) には潜在的な暴力性が内包されている。絶対的な唯一の神を信じる者は他の唯一神教を信じる者を容認できない。そこで暴力で打ち負かそうとする」と説明し、実例として「イスラム教過激派テロ」を挙げている(「『妬む神』を拝する唯一神教の問題点」2014年8月12日参考)。

ここにきてオーストリアのイスラム教関係者が立ち上がってきた。彼らはイスラム寺院、インターネット上でイスラム過激派を厳しく批判してきたが、今月14日、オーストリア全土のイスラム教指導者(イマーム)が同国最大のイスラム寺院、ウィーンの「イスラム・ドナウセンター」に結集し、イスラム過激派を批判する「反テロ 」宣言文に署名する計画だ。オーストリア日刊紙クリアが6日、報じた。

「オーストリア・イスラム教共同体」(IGGO)のイブラヒム・オルグン会長(Ibrahim Olgun)は、「イスラム教徒ではない国民はイスラム寺院で何が話されているか知らない。平和的なイスラム教と過激なイスラム教の違いも知らない。だから、イスラム教指導者が結集し、国民に情報を提供する活動が必要だ。そこで今回、オーストリア全土から300人のイスラム教イマームが初めて結集し、反テロ、反過激主義を明記した宣言文に署名する」というのだ。

イマームの一人で今回の宣言文作成のリーダー、ラマザン・デミーア師(Ramazan Demir)は、「テロとイスラム教は全く異なっている。それを一緒に扱われ、イスラム教がテロ宗教と刻印されることは堪らない。そこで両者の違いを鮮明にすること宣言文を作成することになった」という。

イスラム教をテロ宗教という刻印を押すことで、イスラム教徒と他宗派の国民の間に亀裂を生み出し、キリスト教とイスラム教間の対立が過熱化すれば、イスラム過激派を生み出す温床となる。悪循環だというわけだ。

イスラム教関係者によると、「反テロ宣言」の署名は唯一の活動ではなく、今夏にはイスラム・ドナウセンターから近くのキリスト教会まで人間の鎖をつくり、宗派間の相違を超えて反テロを訴える計画もあるという。オーストリアのイスラム教指導者たちが動き出してきた。

なお、オーストリア内務省によると、昨年年8月31日現在、同国からシリアやイラクで聖戦を繰り広げるISに参戦した国民数は280人で、そのうち、221人は男性、59人は女性だった。女性の数は全体の21%を占めている。
また、戦闘地のシリアやイラクからオーストリアに帰国した国民は87人。オーストリアからISに参戦して死亡が確認された数は44人。全て男性だ。同国には約50万人のイスラム教徒が住んでいると推定されている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年6月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。