農業に「生産性」の発想を導入したら会社員時代より稼げた

畔柳 茂樹

シーズン中に1万人以上が訪れる行列のできる観光農園

6月1日より、弊社の観光農園「ブルーベリーファームおかざき」の今期のブルーベリー狩りの予約がはじまりました。例年通り申し込みが殺到しており、その対応に追われて嬉しい悲鳴を上げています。いよいよ、シーズンのはじまりです。

ちなみに当園の方針として、団体のお客様の受け入れはしていません。来園されるお客様は個人の方のみであるのにもかかわらず、ありがたいことに、たった60~70日の営業期間で1万人以上が来園する「行列のできる観光農園」となっています。

前回の記事でお話ししたとおり、この観光農園は、農業経験のない私が脱サラしてイチからはじめたものです。

「ブルーベリー狩り」と併設するカフェの営業日は1年間のうち夏の60日あまり。そのほかのオフシーズンはほぼ週休5日というサイクルでありながら、年収2千万円を実現することができています。

これは、ただラッキーだったとか、私に特別な才能があったというわけではありません。

従来の農業のやり方ではなく、スモール&コンパクトな事業を目指して生産性向上を追求していった結果、ここにたどり着いたのでした。

農業に参入して気づいた“生産性”の考え方

この記事をお読みの方の中にも、脱サラして農起業という生活に憧れている人がいらっしゃるのではないでしょうか。私も悩みに悩み、大手企業の管理職というポジションを手放してこの世界に飛び込んできました。

そんな異業種から参入した私がこの農業の世界でまず驚いたことが、“生産性という発想が乏しい”ことでした。

特に時間当たりという発想が希薄というか、ないに等しいと感じました。時間は無限にある、あるいは時間のある限り働くことが前提になっているような考え方です。

例を挙げると、農業では反収という言葉をよく耳にします。反収とは1反(10a=300坪)当たりの収穫量、収入を表す指標です。たとえば「ナスは反収○○○万円だから、儲かる」のように使います。そこには、その○○○円を稼ぐのに、いったい何時間の労働時間が費やされているのかが、まったく見えてきません。

農業の事業計画書もそうです。損益計算書を見てみると、アルバイトの労務費は織り込まれているものの、自分や家族の労務費がカウントされていないことが通常。要するに自分たちは、時間のある限り、四六時中、必死に働くことが前提になっているのです。

農林水産省のデータを参考に計算すると、農家の時給は平均600円前後だと推定できます。夢の農業生活ではありましたが、長時間労働はサラリーマン時代の二の舞です。自由のまったくない窮屈な世界からやっとの思いで飛び出してきた身ゆえ、時間的にゆとりのない生活に戻るのはどうしてもイヤでした。

そこで、短期間で極めて生産性が高い農業を実現するためにどうすればいいか、突き詰めて考え、解決法を探しました。

イヤで飛び出した前職の経験が役に立つ

このときに大いに役立ったのが、前職のデンソーで働いていた20年の間に培った合理化技術です。私は工場で働いていたわけではないので、日々実践していたというよりも、コストダウンや生産性の管理指標として常に向き合っていたのですが、皮肉にも、一度嫌気がさして否定した前職の企業で培ってきたキャリアやスキルが、好きなことを仕事にした私を助けてくれたのです。

製造業に携わっている方ならご存じかと思いますが、生産性でもっとも一般的に使われているのは、労働生産性で従業員1人当たり、あるいは時間当たりの付加価値を示す指標です。

生産性を上げるのは、最小限のインプット(労働力)でアウトプット(売上・付加価値)を最大化することにあります。

アウトプットが増えないのであれば、ひたすらインプットを削減していくしかありません。もっとも好ましいのは、アウトプットが増えるにもかかわらず、インプットが減るような画期的な施策です。

機械化によって実現した「無人栽培」

この生産性の考え方を取り上げると、単純に売上・利益を増やせばいいというものではないことがわかります。たとえば、売上・付加価値が10%増えても、それを稼ぎ出すのに10%以上の人、時間をかけていたら、生産性は×(対前年比で悪化)になってしまいます。同時に効率化も並行して取り組まなければならないという、ごまかしがきかない指標です。デンソーでは、毎年5%程度の生産性向上を目標に設定して取り組んでいました。

その考えをもとに、私はまず、栽培から集客までの一連の作業工程を分解して、特に時間やお金がかかりそうな作業、いわゆるボトルネックを探し出しました。そして、機械化、IT化、仕組み化、無駄を省く(作業廃止)の観点から合理化できないかを検証していったのです。

お客様の満足度を向上させながらこのボトルネックをつぶしていく、その方法を模索する中で出会ったのが、「溶液栽培システム」です。

これは、画期的なシステムでした。この方法により、年間60日間あまりの営業日のみ10人程度のパートさんをお願いし、それ以外のシーズンはただ1人の正社員である私が週一程度で作業を行うという、「無人栽培」が可能となったのです。

しかも、この栽培システムは、ただ作業時間の短縮だけでなく、最高品質のブルーベリーを生み出すために最適な方法でした。

詳しくは拙著『最強の農起業!』をご一読いただければ幸いです。次回はこの「無人栽培」と「高品質」を可能にし、さらなる副産物ももたらした「溶液栽培システム」についてお話しします。

(構成:山岸 美夕紀)

畔柳 茂樹
かんき出版

2017-06-07