弁護士に聞いた!あえて「欠点」を示して信頼を得る

尾藤 克之

写真は荘司弁護士(ブログより)

会社、学校、家庭、人が集まるところに必ず存在するのが人間関係である。 良質な人間関係を築くには相手との「信頼」が必要になる。もし、あなたが会社員で、上司から「信頼」されていれば重要な仕事を任せられて高い評価を受けることになる。では、どのようにして「信頼」を獲得するのか。

今回は、アゴラにも投稿いただき、各種行政委員会委員等も歴任している、荘司雅彦氏(以下、荘司弁護士)の近著『説得の戦略 交渉心理学入門』 (ディスカヴァー携書)を紹介したい。本書には、会議、交渉、セールスから恋愛、就活まで弁護士が教えるエビデンスに基づく人を自然に納得させる方法論が紹介されている。

「欠点」を見せてメリットを獲得する

――荘司弁護士によれば、「欠点」を見せて、相手を説得する方法があるそうだ。世の中、完全なものなどはない。物であっても人間であっても、何らかの欠点はあるものだ。

「例を挙げると、昔のソースのCMで次のようなものがありました。『○○ソース。ちょっと高いが、いい味です』。このCMはずいぶん昔にテレビで放映されたものですが、私はこのCMを見たとき、ぜひともこのソースが欲しくなった思い出があります。値段が高いというのは確かに『欠点』です。」(荘司弁護士)

「ところが、ソースの値段の違いなんてたいしたことありません。それよりも、美味しく料理を食べる満足感のほうが、ずっとメリットがあると思ったのです。」(同)

――なぜ「欠点」を示したほうが説得力が高まるのか。それは、「欠点」を自主的に示したほうが、相手から「正直で誠実」だとみなされるからだと、荘司弁護士は答える。これは会社員であればイメージがしやすい。完璧すぎる上司よりも、欠点を見せる上司のほうが人望があるようなことはないだろうか。

「事実、アメリカのある調査によると、履歴書に長所ばかりを並べ立てる応募者よりも、最初に短所や若干の不得意を明らかにしてから長所を書いた人のほうが、次の段階に呼ばれる確率が高くなるということが判明しています。」(荘司弁護士)

――たまに、プロフィールに長所盛りまくりの人がいるが、思いあたる人は注意しなければいけない。「正直で誠実」には見えないと思っている人がいるかもしれない。

こうやって説得に応用する

――皆さまは、中古車を買った経験があるだろうか。荘司弁護士は若手行員の頃の出来事について次のように語っている。

「私が銀行の若手行員で独身寮にいたとき、車の所有者全員が中古車を買っていました。新車を買うほどの金銭的余裕がなかったからです。ご存じかもしれませんが、中古車には『当たりはずれ』があります。ですから友人が中古車を買いに行くときには、何人かがついていき、あれこれ調べたものでした。」(荘司弁護士)

「友人が買いに行くのにつき合ったときのことです。販売員さんが『この車は、トランクの開け閉めに少し力がいるのですが、あとは私が見たところ悪くない車です。走行距離もまだ短いほうですし……』と言いました。私たちは、代わる代わるトランクを開け閉めして、確認をしました。」(同)

――そして、ニーズが合致したことから結果的にその車を購入することになった。販売員が事前にトランクの話をしなければ購入しなかったかもしれない。実は、この考え方は、ビジネスの様々な場面で応用することが可能だ。

「最初に『欠点』を提示することによって、その後の説得に信頼感を持たせるというのは極めて効果的な方法です。ただし、後に提示する『長所』は、相手のニーズに合致していなければなりません。たとえば、機械などの購入費用で他社商品と競合しているような場合は次のように話すべきです。」(荘司弁護士)

「『弊社の製品は、他社のものより1割ぐらい割高ですが、この機能が付いているために1日の処理量が従来品の2倍になります。取扱量の多い御社の業務効率化に大いに貢献できます』という具合に、相手のニーズに合致した相手にとっての大きなメリットを説明しましょう。」(同)

――この場合は機能に即した説明だが、相手に応じてニーズにあわせることが大切だろう。「すべてできます」「すべて対応できます」と主張されると、嘘くさく感じてしまう。自ら欠点をさらけ出したほうが「正直」に思われるのである。

本書では、著者の弁護士としての経験と、心理学や行動経済学等のエビデンスに基づき、具体的な事例を示されている。ビジネスからプライベートまで活用ができるので汎用性が高い。法律家のエビデンスに関心のある方には参考になると思われる。

参考書籍
説得の戦略 交渉心理学入門』 (ディスカヴァー携書)

尾藤克之
コラムニスト

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