EUと日本は経済連携協定の早急なる合意に向かっている。7月6日の安倍首相がブルッセルを訪問した際にその大枠の合意を結ぶのが狙いだ。
7月7日と8日にドイツのハンブルグで開催が予定されているG20の前までに双方で合意に結びつけたいとしている。米国がトランプ大統領の登場で保護貿易に向かっていることに対し、EUと日本は自由貿易の騎手として、この大枠の合意をG20で具体的に披露したいという考えでいるのである。
トランプの保護主義に走ろうとする流れが、今回のEUと日本の合意に刺激となったのは確かである。「今、我々はスピードアップしたいのだ」というのが双方の共通した意思である。そして、EUも日本も明らかにトランプの時代遅れの保護主義を揶揄したいようである。(参照:aduanasdigital.gob.do)
日本は優先順位の最初に挙げていたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の合意が米国のトランプ大統領の登場でとん挫したことで、日本政府は裏切られたと感じている。一方のEUも米国と大西洋横断貿易投資パートナーシップ(TTIP)の合意を目指していた。しかし、交渉内容がベールに包まれ、公にされることがないことにEUの市民は反発。しかも、農業関係者にとって、米国から安価な酪農・農業製品が輸入されて市場が荒られ、EUで不信感の強い品種改良された農作物も入って来るという懸念から、EUは米国と合意に至ることは難しと判断して交渉は昨年8月に決裂した。それに加えて、その2か月前には英国がEUからの離脱を決めるという出来事もあった。
この二つのEUにとって負の要因となることを経験した後、それを払拭し、挽回できるものを求めていた。それが2013年からEUと日本との間で交渉を進めていた自由貿易交渉(JEFTA)であった。
EUにはラテンアメリカのメルコスル(南米南部共同市場)からも自由貿易交渉の年内合意を進めたいという申し入れもあった。しかし、EUはそれを断った。先ず、日本との合意を優先したいという意向があったからである。
その一方で、EUは米国抜きでカナダとはEUカナダ包括的経済貿易協定(CETA)を今年2月にEU議会で承認させていた。しかし、カナダ市場の規模は余りに小さい。(出典:internacional.elpais.com)
EUの狙いは大枠の合意を日本と結んだ後、EU議会でそれを承認させ、加盟国でそれぞれ批准させて、今年末までには双方で最終の合意を結びたいと望んでいる。
EUは5億人の市場である。この合意が結ばれた暁には、EUにとってGDPで0.6から0.8%引き上げることに繋がり、40万人の雇用を生むことになると期待されている。(出典:eldictamen.mx)
唯一残されている詰めは関税率の撤廃である。例えば、チーズ30%、チョコレート10%、缶詰めトマト9%といった関税の日本側の撤廃である。ワインの税率撤廃も同様である。一方の日本側ではEUで科す日本車10%、そのパーツ3-4.5%の関税撤廃とは別に、チーズの一部は税率を下げるが、EUで日本茶や日本酒への税率を下げることも要望している。(出典:aduanasdigital.gob.do:elmundo.es)
その為の最終の詰めとして、6月29日にEU委員会通商担当セシリア・マルムストロームと同委員会農業担当のヒル・ホーガンが東京に向けて出発した。最後の詰めの交渉に臨む為である。(出典:invertia.com)
この様な交渉ではアウトサイダーが干渉して来るのは常である。グリーンピースはEUと米国の交渉の時と同様に、今回のEUと日本との交渉内容をリークした。
グリーンピースは日本の木材輸入の違法取引について指摘し、日本はマレーシア、インドネシア、ロシア、中国などから違法に多量の木材を輸入しており、EUからの輸入ではユーマニアから輸入していることを挙げた。また、捕鯨についても世界で唯一3か国がそれを実施しており、日本は捕鯨区域以外の場所でも捕鯨をしていると指摘。
即ち、環境保護義務をEUは日本側に十分に要求していないとして批判しているのである。そして、取引交渉において交渉の目的達成を目指すだけでなく、交渉が地球規模で社会福祉や環境保護を配慮したものでなければならないと忠告している。(出典:nuevatribuna.es)
EUと日本の交渉はトランプ大統領という米国第一優先の保護主義者が登場していなければ、双方の合意は来年に持ち越されているであろう。