24時間営業とハイヒール、経済学的には同根?


経済学の祖アダム・スミスは、個人の利益の追求が市場全体の最大利益につながると説きました。
個人が自分の利益を最大にすべくライバルと競い合いつつ頑張っていいモノを作れば、それを買う消費者も大きな利益を得られるという考え方です。

現在、私たちが高品質な商品を安価で手に入れることができるのは、業者がしのぎを削って自社の利益を最大化しようとした結果なのです。これは、共産主義国家で粗悪な製品しか作られなかったことと比較すれば容易に想像がつくでしょう(旧ソ連では、とてつもなく重い机やすぐに壊れる自動車がたくさん作られたそうです)。

ところが、個々人が自己の利益を最大にしようとすると困っ事態が生じるというのが「コモンズ(共有地)の悲劇」のケースです。

共有地である牧草では100匹の羊が食べる草しか再生産されず、10人の村人が10匹ずつ羊を飼っていました。その中の一人が自分の利益を増やそうと思って羊を12匹に増やしたとしましょう。しばらくの間は、羊からもたらされる彼の利益は向上します。しかし、他の村人も負けじと飼っている羊の数を増やそうとします。結果として、共有地の草は増えすぎた羊によって食べ尽くされ、牧草地を失った村人全員が困ってしまうのです。

このような事態は、村人全員で「10匹を超える数の羊を飼わない」と約束するか、「飼うことのできる羊は10匹以内」と法律等で定められれば解決できます。

コンビニの「24時間営業も「コモンズ(共有地)の悲劇」と捉える説があります。
一部の地域を除けば、ほとんどの店では、24時間営業をやっているより午後11時から午前7時まで(これが「セブンイレブン」の語源?)店を閉めていた方が利益が高くなるのではないでしょうか?深夜の時間帯に来店する僅かばかりのお客さんからの売上では、夜間の人件費や光熱費等の維持費を賄うことはできないでしょう。

それでも多くの店が「24時間営業」を続けているのは、深夜営業を止めてしまうと「24時間営業」をしているライバル店に客を取られてしまうからです。深夜の数少ない客だけでなく昼間の客まで奪われる恐れがあるのです。
私たち人間は、(面倒な選択を避ける傾向があるため)いつも利用している「なじみの店」で買い物や食事をする傾向があります。おそらく、あなたにも大なり小なり同じような傾向があるはずです。

もし、夜間に急に必要なものができて「なじみの店」に行ったら閉店していた。やむなく別の店に行ったところ「この店も品揃えがいいじゃないか。夜間も開いているし、今度からこの店を使おう」ということになる可能性がありますよね。そうなって「なじみの客」を奪われると困るので、損を覚悟で「24時間営業」を続けている店が相当数存在するはずです。

女性のハイヒールも、つまるところは「コモンズ(共有地)の悲劇」と考える経済学者がいます。
一般に(あくまで一般論です)、「ハイヒールは履き心地が悪くて歩きにくい、長時間履いていると足腰を痛める」と言われています。それゆえ、女性ニューヨーカーの多くはハイヒールを仕事用に限定して、通勤等ではスニーカーを履いているとのことです(伝聞なので真偽はわかりません)。

ではなぜ、女性の多くがハイヒールを履くかというと、「足が長く見えるし姿勢もしスラリと格好良くなる」という理由からだそうです。

他の女性たちがスニーカーを履いている中で一人だけがハイヒールを履けば、他の女性たちより足が長くてスラリと見える分、当人にとって大きなメリットになるでしょう。しかし、女性全員がハイヒールを履くようになれば差別的なメリットはほとんどなくなってしまいます。残るのは「履き心地の悪さと痛んだ足腰」だけになってしまいます。

これは「24時間営業」と同じで、ハイヒールを履いている女性当人にとっても社会全体にとってもマイナスでしょう。ハイヒールを履いている女性を見て目を楽しませる男性にとってはメリットかもしれませんが(笑)

「深夜営業」と共にハイヒールも禁止してしまった方が、当人にとっても社会全体にとってもメリットが大きいのではないでしょうか?

あくまで私の個人的見解ですが、「深夜営業禁止」に対する反対の声よりも「ハイヒール禁止」に対する反対の声の方が”何倍も何十倍も”大きくなると思います。

もちろん「ハイヒール・フェチ」の男性の声もあるでしょうが、おそらく女性の反対の声の方がはるかにはるかに大きくなるはずです。なぜなら、(他人はどうあれ)自分自身が美しくなるためにかなりの犠牲をも厭わないというのが、女性の本能のひとつだからです。

荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年7月5日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。