米国:原油輸入増が輸出増を手助けしている

先週、著名なコンサル会社PIRAが、米国の輸出量は2020年までにほとんどのOPEC産油国より多くなる、と予測した、という記事を読んだとき、何だかなぁ、と思っていた。たとえばFTの “US crude exports forecast to exceed most OPEC members by 2020” (July 12, 2017 by Gregory Meyer) である。記事では、PIRAのGary Rossは「相当量の重質原油が輸入され続ける、と語った」とも記されているが、一般読者が読んだときには、米国がOPEC並みの原油輸出国になる、という印象を植え付けられるものだった。FTでもこれか、と筆者は落胆したのだった。

そうしたら先程(東京時間2017年7月17日15:00ごろ、by David Sheppard)、FT が ”Oil imports help feed US export powerhouse” を掲載していたので、ちょっと安心した。

いま起こっていることは、米国産原油と精製会社が必要とする原油との品質アンバランスを市場機能で調整している、ということである。PIRAの予測も、2020年に米国が原油純輸出国になる、とはしていない点に留意する必要があるだろうな。

スペースの関係で、先週の記事は省略するが、今日のFT記事要点を次のとおり紹介しておこう。
・先週報じられた、輸出増という興奮は、シェール革命の活性化と、何十年も続いてきた輸出制限が外されたことが原因で、実は、輸出が増えているのと同時に輸入も増えている、という側面がある。

・2017年上半期、米国の原油輸出は歴史上最高の100万BDを記録した。だが輸入も前年同期比5%、あるいは約30万BD増となった(EIAによると、前年同期の原油輸入量は約776万BD)。

・今年の輸入増の2/3はカナダからで、100ドル時代の2014年以前に投資されたオイルサンド(プロジェクト)からのビチュメン(アスファルト)状の原油が主役だ。カナダからの輸入は310万BDから330万BDに増えており、残りはOPEC諸国からである。

・精製業者は、価格競争力を含め、自らの装置に最適の原油をえり好みできるようになっている。Petromatrixのアナリスト、Olivier Jakobは「米国は軽質原油が多すぎるから輸出し、代わりに中重質原油を輸入している」と指摘する。

・この輸出増は、米国が市場のニーズにすみやかに対応できることを示している。確かに輸出の大半は軽いシェールオイルだが、大量の重質原油のアジア向け輸出も始まっている。これまでに少なくともVLCC3隻分のメキシコ湾産重質原油がアジアに輸出された。インドの国営石油IOCは、昨年10月にメキシコ湾産Mars原油と、カナダのタールサンドをVLCC上でブレンドしたものを購入した。経済条件が合えばまた購入する、としている。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年7月18日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。