愛のある暴力は「暴力」ではない!それは指導である?!

尾藤 克之

写真は元永知宏氏

時代が昭和だったころ、野球に暴力はつきものだった。監督が選手に喝をいれる、上級生が説教をする。どこの野球部でも日常的に見られた光景だった。甲子園常連の強豪であればあるほど苛烈さを増した。「量より質?、甲子園に出たいなら『質より量』の猛特訓をやるべきです!」。以前、ある強豪校の監督から聞いた言葉である。

今回は、『殴られて野球はうまくなる!?』(講談社)を紹介したい。著者、元永知宏(以下、元永氏)の略歴を簡単に紹介する。大学卒業後、“ぴあ”に入社。関わった書籍が「ミズノスポーツライター賞」優秀賞を受賞。その後、フォレスト出版、KADOKAWAで編集者として活動し、現在はスポーツライターとして活動をしている。

やはり暴力は是認されないのか

――TVの野球中継を見ていたら、突然、次のようなニュースが飛び込んできた。「甲子園常連の○○高校で暴力事件発覚!監督の暴力が常態化。学校も黙認!」。このニュースを見たら、あなたはどのように思うだろうか。

「かつて、監督やコーチの多くが暴力的な指導を行っていたことは、周知の事実です。でも、監督が厳しかったといっても、部員全員が殴られたかというと、そういうわけではありません。チームの中核を担う選手がその標的になってきました。ある高校では、グラウンドで練習できるのはレギュラーだけでした。ベンチ入りしていてもバッティング練習をさせてもらえない選手もいます。だから、当然、殴られるのもレギュラーと決まっていました。」(元永氏)

「中心選手のなかでも、『殴ったら傷つきそうだな』『殴ったら辞めちゃうかな』という選手がいたら、監督は手をあげません。そこにはきちんとした判断があったと思います。」(同)

――いったい、どのような判断があったというのか?

「ある高校のキャプテンは高校時代に1000発以上殴られたそうですが、憎しみも怒りもまったくないそうです。監督は気持ちを込めて殴り、その理由もはっきりしていた。『愛のある暴力は暴力ではない』と話していました。恩師はとにかく愛情あふれる監督で、教え子が高校卒業後に問題を起こしたときには、進学した大学にまで謝りに行ったというエピソードが残っています。」(元永氏)

「もちろん、殴られた選手は『冗談じゃない』『なんで俺が』と思うこともあったでしょう。練習場までバスで移動する間に『監督が座っている席だけ事故にあわないかな』と考えていたと聞いたことがあります。監督にあるのは『甲子園に行かせてやりたい』という思いです。それが通じている限り信頼関係は崩れないものです。」(同)

――ここで一つの事例を紹介したい。箕島高校の故尾藤公監督。甲子園春夏連続優勝を含む4回の優勝経験がある名将だ。初優勝時(1970年)はスパルタで選手をしごく「鬼の尾藤」で有名だった。その後、チームが伸び悩んだとき、チーム運営をめぐってOBと対立し退職した経験をもつ。ボウリング場で数年働き、接客をしながら謙虚さを学んだ。

再び監督に戻ると、選手に笑いかける表情がTVで流れるようになった。それが「尾藤スマイル」として評判になる。指導方針が変化したわけではない。練習は相変わらずスパルタだった可能性がある。伝え方を変えたのである。選手が萎縮しないようにした形が「尾藤スマイル」だった。『尾藤公一期一会一球』(デイリースポーツ)にも紹介されている。

もっと掘り下げた議論が必要

――甲子園を目指して入部しても、チャンスをもらえない選手もいる。大所帯のチームが一丸となるのは難しい。そこでキャプテンの出番になる。

「ある高校には部員が100人いても、練習できるのは15人程度。背番号がもらえない選手もたくさんいます。甲子園に出場するためには地区大会を勝ち抜かなければいけません。一体感を出すために監督が大会前にキャプテンを殴ったこともありました。キャプテンも監督の意図を理解していて殴られるのを待っていたそうです。殴られてチームの一体感が増すならいいかなと。」(元永氏)

「キャプテンのなかには『チームがたるんでいたら、おまえを殴るぞ』と事前に宣言されている人もいます。このような話を聞いたことがあります。地方大会直前、抽選会がおこなわれるときのことです。抽選会がある日は雨が降っていて、グラウンドでは練習ができそうにありません。雨天練習場もありません。この後、どうしたでしょうか。」(同)

――いったい、どうしたのか。

「廊下の走り込みなど、考えればやることはいくらでもあります。ところが学校の門が閉まっていました。乗り越えて鍵を開ければ入ることができます。でも、『門が閉まっているから入れない』と思いながら休憩していると監督が登場して、『キャプテンを呼んでこい』となりました。午前しか練習はできませんがあまり時間もありません。」(元永氏)

「監督は怒りました。選手たちが『門が閉まっていて入れないんです』と答えると、『そんなことで、甲子園に行けると思っているのか!」と鉄拳が飛びました。」(同)

――しかし、鉄拳は次のような効果を引き出すことになる。

「監督の鉄拳によって、チームはバシッとまとまりました。あれがなかったら、最後の夏、甲子園に行けなかったかもしれないとキャプテンは話していました。この類のテーマは難しいですが、理性的に掘り下げて議論することが必要ではないかと思います。そのための問題提起ができればと思い本書を上梓しました。」(元永氏)

野球と暴力の危うい関係

――元永氏は「暴力をうまく手なづけることができれば効果を生み、使い方を間違えれば惨劇が起きる」と語っている。一時的であったとしても効能があることを体験しているのだ。ただし誤解のないように申し上げておく。決して、暴力を肯定しているのではない。

本書では、実際に野球の最前線で戦う野球人などの証言をもとに、野球と暴力との危うい関係をひもといていく。本書は元永氏が取材などをおこない、それらの証言を元にまとめたものである。また、本記事用に本書一部を引用し編纂した。

参考書籍
殴られて野球はうまくなる!?』(講談社)

尾藤克之
コラムニスト

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