【映画評】心が叫びたがってるんだ。

人と本音で向き合うことが苦手な高校3年生の坂上拓実は、ある日、担任教諭から地域ふれあい交流会(ふれ交)の実行委員に任命されてしまう。同じく委員になったのは、幼い頃に負ったトラウマのせいで他人と話すことができない少女・成瀬順、中学時代に拓実とつきあっていたのに自然消滅した優等生の仁藤菜月、甲子園への夢に破れた元野球部のエースの田崎大樹。ふれ交の出し物はミュージカルになり、拓実のある言葉から、順は歌ならば思いが伝えられるかもしれないと、主役に立候補する。それぞれ心に傷を抱えた4人は、ぶつかりあいながらも、少しずつ距離を縮めていったが、本番直前にある事件がおこる…。

2015年に公開され、スマッシュ・ヒットとなったアニメを実写映画化した青春映画「心が叫びたがってるんだ。」。幼い頃、自分が親に言った一言で家族がバラバラになったことがトラウマで、しゃべれなくなった少女・順を中心に、それぞれ悩みや心の傷を抱えた高校生たちが、淡い恋心や友情によって成長していく姿を描く。オリジナルのアニメは通称“ここさけ”と呼ばれ、その繊細な物語と好感度が高い絵柄で人気を博した。そんな作品の実写化のハードルは高いものだが、実写版“ここさけ”は、キャスティングや演出も含めて、かなり成功しているとみた。目の前にいる大好きな人に想いを伝えることができないもどかしさや、音楽を通して気持ちを表現するみずみずしさ、時に人を傷つけ、時に人を励ます言葉というものが持つ大きな力を、本作はオリジナルに忠実に、しっかりと伝えてくれている。

もともと音楽の素養があった拓実を中心に、言葉を話さないことで変人扱いされていた順の懸命な勇気に打たれたクラスメイトたちが、ふれ交のミュージカルに向けて一丸となって頑張る姿は、いかにも青春映画らしい。実写版では、順の言葉を封じる卵の妖精は登場しないが、その代わりに、生徒たちをさりげなく見守る担任が言う言葉が効いている。「ミュージカルでは、古今東西、奇跡が起こるもんなんだよ」。その奇跡とは、心に閉じ込めた本当の気持ちに向き合った4人が起こす相乗効果のミラクルなのだ。SNSなどの普及で情報量は増えたのに、コミュニケーションは自分が傷つかないように、本音を隠して無難に流すのが現代社会。校舎の屋上で“叫ぶ”のは気恥ずかしいが、相手の目を見て、しっかりと思いを伝える勇気を思い出させてくれる。“ここさけ”はやっぱり切なくてあたたかい。
【70点】
(原題「心が叫びたがってるんだ。」)
(日本/熊澤尚人監督/中島健人、芳根京子、石井杏奈、寛一郎、他)
(片想い度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年7月24日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。