バチカン日刊紙、保守派を批判

バチカン日刊紙オッセルバトーレ・ロマーノ日曜版(7月23日付)は、教会内の改革嫌いの聖職者を批判し、「フランシスコ法王が願う教会刷新の障害となっている」と指摘した記事を掲載した。バチカン日刊紙が教会内の保守派聖職者をはっきりと批判する記事を掲載することは非常にまれだ。それだけに、バチカン内でフランシスコ法王の教会改革派とそれに対抗する保守派聖職者の間でいよいよ鞘当てが始まったとみて間違いないだろう。

▲バチカンの復活祭とフランシスコ法王(2017年4月16日、独公営放送から)

バチカン日刊紙でイタリア人の聖書学者ジュリア・チリニャノ氏は、「聖職者の中には教会刷新に対し閉鎖的か、敵意すら感じる者がいる。理由は教育不足や反改革時代の古い概念の中で留まり、発展が止まった人々だ。多くの聖職者はフランシスコ法王の刷新路線を理解しているが、わずかな少数派はそれを受容することを躊躇している。彼らは自分の教区で古い世界観、実践の中に留まり、古い言語で多様性のない思考の中に生きている。彼らは伝統への忠実さを敬虔な献身と間違って理解している」と述べている。批判は中途半端ではない。かなり厳しい。

一方、保守派も黙ってはいない。今月2日までバチカン教理省長官を務めていたゲルハルト・ミュラー枢機卿はイタリア日刊紙イルフォグリオとのインタビューの中で、「フランシスコ法王に離婚・再婚者への聖体拝領問題で書簡を送った3人の保守派枢機卿と交流していく考えだ」という。具体的には、ドイツのヴァルター・ブランドミュラー枢機卿、米国人のレイモンド・レオ・バーク枢機卿、そしてイタリア人のカルロ・カファラ枢機卿の3人だ。4人目の枢機卿マイスナー枢機卿は今月5日、83歳で死去した。

ミュラー枢機卿は、「ローマ法王に書簡を送ったということが明らかになるとバチカン内外で枢機卿への中傷、罵倒の声が飛び出し、枢機卿らとの真摯な対話を求める声は聞かれない有様だ」と指摘し、3人の保守派枢機卿と連携を強化する意向というわけだ。

フランシスコ法王は2016年4月8日、婚姻と家庭に関する法王文書「愛の喜び」(Amoris laetitia)を発表した。256頁に及ぶ同文書はバチカンが2014年10月と昨年10月の2回の世界代表司教会議(シノドス)で協議してきた内容を土台に、法王が家庭牧会のためにまとめた文書だ。その中で「離婚・再婚者への聖体拝領問題」について、法王は、「個々の状況は複雑だ。それらの事情を配慮して決定すべきだ」と述べ、法王は最終決定を下すことを避け、現場の司教に聖体拝領を許すかどうかの判断を委ねた。

カトリック教会では離婚者・再婚者にはこれまで聖体拝領は許されてこなかったが、離婚再婚者の数が増え、彼らに聖体拝領を拒むことは教会にとっても次第に難しくなってきた。

マイスナー枢機卿を含む4人の枢機卿は昨年9月、フランシスコ法王に手紙を送り、離婚・再婚者への聖体拝領問題について、「法王文書の内容については、神学者、司教たち、信者の間で矛盾する解釈が生まれてきている」と説明、法王に明確な指針の表明を要求している。

ミュラー長官は2012年、ベネディクト16世(在位05年4月~13年2月)から、当時、退職する教理省長官ウイリアム・レバダ枢機卿の後継者に任命された。前法王ベネディクト16世の流れを汲むドイツの保守的神学者だ。ミュラー枢機卿は、「離婚者、再婚者へのサクラメントは、夫婦は永遠に離れてはならないというカトリック教義とは一致しない」と主張してきた。バチカン放送によると、ミュラー枢機卿は母国ドイツには戻らず、ローマに留まり、神学と牧会を進めていくという。

フランシスコ法王を中心とした改革派聖職者とミュラー前長官と3人の枢機卿を中心とした保守派聖職者との対立構図が浮かび上がってきた。両者がローマ・カトリック教会総本山バチカンを舞台に正面衝突する気配すら出てきた。お気に入りのメディアを通じて相手を攻撃し、牽制する第1ラウンドのゴングは鳴った。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。