イエメンでは武力紛争の影響でコレラの集団感染が拡大して大規模に蔓延している。
既に30万人以上が感染し、死者は1300人以上、その内の4人に一人は子供だと報じられている。
紛争が始まる前から世界で最も貧しい国の一つに挙げられていたイエメンである。その貧困に加えて、2015年3月にサウジアラビアが武力介入した。この紛争が長期化するにつれて食料は不足し、栄養失調者が増加。その一方で、紛争によって保健衛生面の管理は行き届かず、病院や診療所など医療施設は破壊され、医薬品も不足するという事態になっているという。
イエメンでは「アラブの春」以降、それまで独裁者となっていたスンニ派のサハレ大統領が失脚。副大統領だったハディが暫定的に大統領に選ばれた。しかし、イエメン国内はイランの支援を受けたシーア派の武装組織「フーシ」が次第に勢力を増してハディ暫定大統領を国外に一時的ではあるが追放した。
サウジアラビアは自国内に隣国イエメンからシーア派の勢力が拡大するのを警戒して武力介入に踏み切った。この介入を決断したのは、つい最近サウジアラビアの次期国王になることが決まったムハンマド・ビン・サルマン皇太子であった。国防相としての経験がなかった彼は当初この武力介入は一時的なものだと判断していたようである。しかし、既に2年経過した今も紛争解決の糸口は見つかっておず、長期戦となってベトナム化している。しかも、この紛争をより複雑化させているのは、過激派テロのイスラム国とアルカエダもこの紛争に介入しているということである。
しかも、この紛争をより危険なものにしているのはイエメンと対岸のジブチとの間のバブ・エル・マンデブ海峡は原油の重要な輸送路になっているということである。この紛争が長引くことによって、この海峡が仮に封鎖される事態になると、日本も原油の輸入に支障を来たすようになる。
長引く紛争の中にあって、公共医療組織の医師3万人への給与の支給も10か月以上滞った状態になっているそうだ。その不満を表明する間もなく、毎日、5000人の感染患者が発生しているという。
NGOの「セーブ・ザ・チルドレン」は、35秒ごとに子供がコレラに感染していると指摘し、220万人の子供が限界を越えた栄養失調に陥っていると報告している。
首都サナアのある病院のひとりの医師はセーブ・ザ・チルドレンのメンバーに厳しい現状を伝えるべく、「先週は1分ごとに2人から3人がコレラに感染した疑いのある患者を診断した」と語り、「先月は一日に180人の診察をした」と述べ、病院にスペースの余裕はないことから、「一つのベッドに6人の子供を寝かさねばならなかった時もあった」と答えたそうだ。更に、同医師は「薬も医療品の供給も不足している。医師の数も充分ではない。手を洗える洗面ボールさえもない状態だ」と語って、厳しい医療事情下にあることを伝えたという。
事態が容易ならない状態であることを伝えるかのように、全国22県の内の20県がコレラに感染し、パンデミックな状態にあるということを世界保健機関(WHO)が指摘している。
ラミアという女の子の場合、2日間公共病院に入院していたが、放置されたような状態で病状に回復が見られなかった。彼女の父親は残っていた貯金96000レアル(27000円)をすべてはたいて私設病院に5日間入院させることに決めたという。「とても高額だ。しかし、看護は良かった。ラミアは回復した」と父親は語った。
2015年からイエメンでWHOに籍を置き、今年1月から同組織の代表として働いているスペイン人女性メリチェル・レラーニョは『El Pais』の取材に次のように語った。「国連はイエメンが保健衛生プログラムの実施に必要な資金の29%しか調達できなかった。ユニセフの場合は事情は幾分か良い」「コレラ対策に取り組むには7600万ドル(83億6000万円)が必要とされているが、現在1300万ドル(14億3000万円)を確保している」。そして、「期待は薄いが、あと2500万ドル(27億5000万円)が届くことになっている」と述べたという。