今月19日に南米の人口350万人の国ウルグアイにて大麻の販売が薬局で開始された。「世界一貧しい大統領」と呼ばれていたホセ・ムヒカが大統領だった2013年に大麻の栽培と販売が法的に合法化され、それが今回の販売に結びついたのである。まず、全国19県の内の11県から16店の薬局が選ばれて販売の開始となった。
年間で一度ならずとも大麻を吸うウルグアイ人が16万人いるとされている。それを利用して麻薬組織はウルグアイという人口350万人の小さな国で3000万ドル(33億円)のビジネスにしている。その為に、暴力に訴えたり、死に至らしめる事態も生じている。それを取り締まるには麻薬の販売を合法化させることだと当時のムヒカ大統領は考えて、それに取り組んだのであった。
合法化された大麻の販売は世界でも画期的な出来事である。ウルグアイという国は歴史的にラテンアメリカで常に革新的なことを実行して他の国がそれに追随するというお手本的な国として存在して来た。例えば、奴隷の廃止、離婚や売春の合法化、政教の分離といったことをラテンアメリカでどの国よりも先に実行している。それはウルグアイ麻薬協会の元書記長だったフーリオ・カルサドがある取材に答えて「ウルグアイ人の70%は無神論者で不可知論者である」と指摘したことに関係があるかもしれない。
同氏も今回の合法化への推進者の一人であった。合法化への狙いは大麻を商売にする市場での価値を剥奪するという考えから出発したという。即ち、今回薬局で販売されている価格は5グラムが187ペソ(730円)であるが、それが麻薬市場ではこれまで500-800ペソ(1950-3120円)で販売されていたのである。
合法化された販売価格が一般の麻薬市場での価格と比較して可成り安いということになり、麻薬市場は商売として成り立たなくなってしまう。そして合法化することによって、麻薬中毒者をコントロールすることも可能となる。そうすることによって、麻薬が絡んだ暴力行為や犯罪を防止する。このような考えから当時のウルグアイ政府は今回の合法化への道を選択したのである。
ルカス・ロペスは大麻の常連客であったが、大麻を喫煙する為のあらゆる小物用品を販売する店を開業した。店の表には複数の言語で「ここでは大麻の販売はしていない」と大きく表示しているが、その彼が今回の大麻の合法化について『El Pais紙』の取材に答えて次のように語った。
「私は15歳の時から麻薬を消費している。高品質で、非常に安価で、容易に手に入る大麻をこれまで手に入れたことがなかった。もう麻薬を手に入れる為にスラム街に行く者はいなくなる。麻薬扱い業者は大麻への関心はもうなくなるはずだ。そして彼らは他の麻薬を扱うようになるだろう」。
販売開始日の当日午前8時に16店の薬局名と住所が一斉に公表された。安全面を考慮して、販売場所は当日まで未発表だったという。そして、用意されていた大麻は一日で完売されたそうだ。
薬局で大麻を購入するには先ず登録する必要がある。ウルグアイ人で18歳以上であることが条件だ。7月16日までに登録を済ませた人は4959人で、政府が当初予測していた6万人には遥かに及ばない数字であった。また、自家栽培者が6948人と63か所の大麻喫煙クラブも登録されたという。
登録者ひとりにつき1週間に10グラム(ひと月に40グラム)の購入が許可されている。販売している大麻の種類は<Alfa IとBeta Iの2種類>。両方とも薬効成分としてテトラヒドロカンナビノール(THC)は2%、カンナビジオール(CBD)は前者が7%、後者が6%となっている。
この2種類の大麻は軽く、大麻の常連客には薬効成分が幾分物足りなく感じられている。そのような人は自家栽培やクラブでの登録が可能となっている。
登録者の60%は人口56万人の首都モンテビデオに在住している人たちで、4か所の薬局で販売されることになったという。
また、生産業者については、民間企業2社が政府の入札で落札して生産にあたっている。
今回の試みの結果次第で、ウルグアイで大麻を販売しようとする薬局が急増する可能性はある。しかし、世間体を気にして「あの薬局は麻薬を販売している」ということで、薬の消費客の減少を恐れて、大麻の販売を辞退している薬局もあるという。