相続税対策をベンチャー育成に利用しては?

荘司 雅彦

世界に冠たるIT企業、グーグル、マイクロソフト、Facebook…等々。これらはすべて米国が発祥です。

日本社会がバブルに浮かれていた頃、米国経済は未曾有の危機的状況でした。自動車や鉄鋼などの伝統的製造業が衰退し、このまま沈みゆく大国になるのではないかと危惧する識者がたくさんいました。

米国がITによって世界中を席巻するようになった原因の一つとして、ベンチャー企業にリスク資金が流れ込んだことが挙げられます。かのグーグルがベンチャーキャピタルから出資を受けた時には、銀行口座すら持っていなかったそうです。

ベンチャー企業にリスク資産が流れ込んだ背景には、リスク嗜好的な米国民の気質や、失敗を許容する社会風土があるのでしょう(「私は今まで何十回も失敗してきたので経験豊富だ。だから安心して出資してくれ」というプレゼンが堂々とまかり通るそうです)。

日本の金融庁は、地方銀行に対して「成長分野に融資しろ」「担保にこだわるな」という趣旨のことを言っているようです。

しかしこれは無理な要求です。リスクが高くなれば高いリターンが得られなければ割が合いません。

銀行融資の金利は利息制限法で規制されているので、最大でも20%です(金額が大きくなれば最大15%)。裏を返せば、銀行は15%程度のリターンに見合ったリスクしか許容できないのです。これは小学生にでもわかる理屈です。

ベンチャー企業が上場する確率は、実際のところ数パーセントしかありません。95パーセント以上のベンチャー企業は上場できず、その多くは破綻してしまいます。

仮に、銀行が100万円を100社のベンチャー企業に融資したとしましょう。
総額1億円の融資です。うち95社が破綻すれば、銀行が残った5社から受け取ることのできる利息は年75万円。つまり、5社がどれだけ成長しても年0.75%のリターンしか得られないのです。

大きなリターンを得ることができるのは、ベンチャーキャピタルのように出資することでしょう。成功した1社の株価が何十倍にもなれば、残りの99社が破綻しても十分なリターンを得られる可能性があるからです。

しかし、日本のベンチャーキャピタルは銀行や証券会社の系列が多く、基本的には保守的です。どうしても、そこそこのリスクしか取ることができないようです(今後は変わってくるかもしれませんが…)。

そこで、多数の一般大衆から少額の出資を募るクラウドファンディングが注目されています。

日本の個人金融資産総額は1800兆円もあるので、各人が許容できる範囲の出資をすれば、莫大な資金をリスク分散をして出資することができます。

ところが、個人金融資産の約6割を有しているのが65歳以上の高齢者です。本来的に高齢者は保守的である上、いつブレイクするかわからないベンチャー企業に出資することをためらう人が多いと推測されます(自分が生きているうちにブレイクするとは限りませんから)。

そこで、私は、ベンチャー出資に回した資金の相続税の大幅な減免を認めてはどうかと考えています。

方式は、別にクラウドファンディングでなくとも問題ありません。ネットを使えない高齢者もたくさんいますから。

昨今、相続税対策でアパートやマンションを建てる人が増えています。供給過剰で空室が増えるのではないかと危惧されています。

このように、節税のために行き場のない資金をベンチャー投資に振り向ければ潤沢なリスク資産が供給されることになります。100社、200社に分散投資すれば、明日のグーグルの大株主になれるかもしれません。本人死亡後であれば、配偶者や子どもたちに対する大きなプレゼントになります。

どのような形で相続税の減免を講じるかという詳細は実務的にしっかり詰める必要があります。ただ、アパートやマンション建設に向かう資金を成長分野に振り向けるという基本路線は大いにアリだと思うのですが、いかがでしょう?

荘司 雅彦
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-06-22

編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。