まさかの「イソコ特集」に仰天
週刊文春の東洋経済オンラインに対する砲撃をきっかけに、最近の文春砲の「劣化」「左傾化」について論評したばかりだが、ちょっと驚いてしまったのは、SNSを眺めていたら、きのう(8月11日)の文春オンラインで、あの菅官房長官の天敵、東京新聞社会部記者、望月衣塑子氏のロングインタビュー記事を掲載しているではないか。
私が菅官房長官に「大きな声」で質問する理由 東京新聞・望月衣塑子記者インタビュー#1
もちろんロングインタビューを載せたからといって、その媒体が必ずしもその人物を応援しているとは限らない。しかし、私は記事本編を読む前のある一か所を見た時点で、インタビュアーおよび文春オンライン編集部の望月氏に対する価値観が伺えてドン引きしてしまった。それは冒頭の写真のキャプションだ。「望月衣塑子さん」と「さん」付けしている。なぜ「望月氏」でも「望月記者」でもなく、「望月さん」という柔らかい呼称に敢えてしたのか。もうこの時点で彼女を好意的にみていることがわかる。
ちなみに、内容についてアゴラ執筆陣の梶井彩子さんはこんな感想を寄せてきた。
それにしても、望月氏の記事で驚いたのは、これだけでも3ページに分け、相応のボリュームがあるにもかかわらず、どうやら何回かに分けての連載で構成しているのだ。
11日深夜の時点ではトップページにも「目玉」記事のように表示していたくらいだから、このお盆休み期間中の文春オンラインとして、かなり力を入れていることがわかる。インタビュアーの大山くまお氏のことはよく知らないが、いずれにせよ、文春がオンラインという社内の新興媒体とはいえ、インタビュー全体を読んで貰えば、「反権力のヒロイン」としての望月氏を持ち上げているように感じる読者のほうが多いだろう。
首相動静記事の読み比べで思わせぶりなものも
このインタビュー記事以外にも印象的だった文春オンラインの人気記事が、プチ鹿島氏の読売と朝日のある日の首相動静記事を読み比べだ。
読売「首相の一日」と朝日「首相動静」を読み比べて分かってしまった“あの人の不在”
2016年8月10日、安倍首相が山梨でゴルフをした後の会食の同席者の名前として、読売は加計幸太郎氏の名前を載せず、朝日が載せたことを「発掘」している。鹿島氏は「これは一体どういう意味なのだろう」と、思わせぶりに疑問を投げかけつつ、「まさか「忖度」が発生したのか、それともただの「手抜き」なのか」と煽り立てて記事を締めている。
常識で考えれば、1年前の時点で加計学園の問題は世間でまったく話題になっていない。仮に読売政治部が安倍さんと加計さんの特別な関係をその当時熟知していたとしても、その時点で忖度して「隠す」動機があるのだろうか。
首相動静欄(読売では「首相の1日」)はもちろん、我が国の公人トップである首相と面会した重要人物はできるだけ多く記載することが望ましいが、しかし、政治面の記事の隅っこの「埋めダネ」的な存在でもあるので、紙面編集の都合によって、部分的に削られることも十分ありうる。別に読売が古巣だからといってかばっているわけではなく、10年も新聞記者をやった人間なら、紙面づくりの一般論として想定できる話だ。
インテリジェンスの世界では公開情報、特に報道内容の分析はイロハのイで、プチ鹿島氏がやったように首相動静欄の読み比べ自体は面白いし、各紙の政権との距離を計ること自体は意義がある。しかし、なにか読売が忖度したかのように、思わせぶりな匂いをふりまく書き方をするのは、鹿島氏も安倍嫌いの界隈の人物なのか、文春オンライン編集部がPV稼ぎに走ったのか、あるいは媒体として倒閣への世論づくりに寄与しようとしているのか。前出の望月氏のインタビューと合わせて興味深いところではある。
「忖度」をしているのは文春のほうではないのか
それにしても、「文春の左傾化」が取りざたされていることは、冒頭でリンクを貼ったおとといの拙稿でも取り上げたばかりだが、望月氏のインタビュー記事を大々的に連載で載せた時点で、私は一線を越えたようにしか思えなかった。ただし、文春の左傾化については懐疑的な見方も結構ある。週刊文春が、加計学園問題を本格的に報じ始めた頃、別の大手出版社の週刊誌記者経験のあるネットメディアのある重鎮が「左だろうが右だろうが、面白いと思う方につく」と語っているのを見て、私もその頃は良い意味でも悪い意味でも文春に政治的な軸はなく「そんなものか」と思ってはいた。
ただ、週刊文春本誌ではなく、文春オンラインとはいえ、上記の「反権力ありき」「反政権ありき」のカラーが色濃い記事が増えてくるようになると、花田紀凱さんや勝谷誠彦さんらの保守論客が週刊文春の一時代を築いた頃の伝統はすっかり影を潜め、変質が進んでいるようにしか思えなくなる。
仮に左傾化に舵を切っていたとすれば、その原因は何であろうか。池田信夫がきのうのJB Pressの連載で「マスコミの反安倍祭り」の背景を読み解いていたが、接触メディアがテレビや紙媒体が中心で、ネットメディアをほとんど見ない団塊世代以上のシニア層の動向に、週刊文春の販売も影響を受けやすい構造であることには間違いない。
さらに「文春砲」が流行語大賞的な大衆のネタになり、編集部にTBS系の情報番組「ゴゴスマ」のカメラが入るなど、一昔前にはなかったワイドショーとの同調化も見受けられる。新谷編集長がリベラル気質だから左傾化したという説も根強いが、新聞以上に部数の変動が激しい週刊誌としては、まだ紙媒体を取ってくれるシニア層の空気をそれこそ積極的に「忖度」しないと生き残れないのもまた事実だ。
そうなると、オンラインの方で、本誌より左傾化したコンテンツが増えているのには一見、合点がいかない。先の仙台市長選の世代別得票動向では、ネットをやる20代、30代以下は落選した与党推薦の候補者への支持が野党共闘で当選した候補者よりも上回っていた(NHK出口調査)ようにニーズにあっていない気もする。
その一方で、出版社のオンラインメディアは、本誌でできないことをテストマーケティング的に仕掛けることも多い。文春オンラインは、週刊文春の左傾化コンテンツの「触媒」として活用しようと思えばできる。
文藝春秋社の本丸は月刊の論壇誌「文藝春秋」だから、ここの内容がどうなっていくのかが一つの目安にもなりそうだが、最新の9月号のメイン企画は「安倍総理でいいのか 自民党国会議員408人緊急アンケート」。「反安倍」の党内論客、石破茂、村上誠一郎、後藤田正純の3氏へのコメントが載っており、さて、どうなりますか、というところだ。
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なお、8月28日発売の新刊『朝日新聞がなくなる日〜“反権力ごっこ”とフェイクニュース ”』では、宇佐美典也さんと、新聞業界を中心に近年のメディアの左傾化についても論じており、望月記者の取材手法や見え方についても取り上げた。発売まで半月あるにもかかわらず、おかげさまでご期待が高い。アマゾンでは予約段階で「マスメディア」カテゴリーの10位まで浮上しており(11日夜時点)、従来の右派論客による「朝日新聞憎し」ありきのものとも、世代的な視点も違うメディア論をお届けできると自負している。