1992年にバルセロナでオリンピックが開催されて以来、バルセロナは世界的に注目される都市として発展した。それを利用して、70年代から成長していた観光業に拍車がかかってバルセロナは世界を代表する都市のひとつなるほどまでに成長した。
バルセロナを首府とするカタルーニャ州の観光業は同州GDPの14%を担うまでに成長。今年上半期だけでも860万人がバルセロナを訪問している。また、バルセロナ・オリンピックから25年が経過した今年は、それを記念する祝典も行われた。
ところが、最近、観光バスに外人観光者を排斥しようとする落書きや、特に観光者を対象にしたレンタル自転車が駐輪されている所でタイヤを刃物でパンクさせるといった外人を排斥しようとする運動が一部グループの間で起きている。それが、外国の報道メディアにまで取り上げられるまでになっている。
それに加えて、観光者に悪い印象を与える事態が7月後半からバルセロナのエル・プラッツ国際空港で起きている。乗客が搭乗する前のセキュリティー・チェック部門で検査員が最初は水面下でのスト、そしてその後は時間を制限してのストを敢行しているのだ。その影響で乗客はそこを通過するのに2時間から3時間待ちという状態が続いていた。現在は、組合側と経営者側に加えて空港運営事業団(AENA)とカタルーニャ州政府も加わっての交渉中で、それでも40分から1時間半待ちの状態にある。
その影響でフライトの出発が遅れ、多くの乗客が搭乗できなかったという事態にまでなっているという。搭乗遅れの乗客が数名であれば、次の便に彼らを回すことは可能である。ところが、ひと便につき50人と言った数の乗客の搭乗が遅れた場合だと当然離陸を遅らせねばならない。このような事態が離陸する殆どのフライトで起きているというのだ。
筆者の娘も7月末にこの空港から米国に向け出発したが、予測されていた通り2時間待ちでセキュリティーを通過して、ギリギリで機内に搭乗できたが、それから飛行機が離陸するまで2時間機内で待たされたそうだ。勿論、米国では予定されていた乗継便には間に合わなかった。
エル・プラッツ空港のセキュリティー・チェックはこれまで民間企業Eulenに昨年から委託されている。同社の350人の陣容で同空港の警備を請け負っている。しかし、カタルーニャ州への外国からの訪問客の急増で、エル・プラッツ空港での警備員は16時間の勤務を余儀なくさせられることが往々にしてあるという。また、スキャナー部門にいるスタッフには特別手当も支給されないでいる。
組合側では給与アップとスタッフの増員を会社側に要求している。組合側では350ユーロ(43750円)のアップを要求。経営者側は毎月150ユーロ(18750円)のアップを提示。州政府は200ユーロ(25000円)を提示し、経営者側もそれを了承。しかし、8月11日まで組合側がそれを不服として双方で合意に至っていない。
このセキュリティーチェックの遅れが始まったのは7月24日であった。この日に、最初の水面下ストを敢行したのである。組合側の狙いは乗客がセキュリティー・チェックを通過するのに凡そ40分を経過させることであったという。それが、3日後の27日には通過に2時間を要するまでに発展したのである。28日はバルセロナ州政府が仲介に入ったが、交渉に進展はなし。事態の緩和に会社側は急きょ25人を増員し、近く更に25人を加えるというプランを組合側に提示した。
しかし、組合側ではそれだけでは納得しないとして、8月4日金曜日から8月中旬まで<日、月、金に1時間のストを敢行する>と発表。それでも昇給の要求が受け入れらない場合は8月14日から24時間の全面ストに入ると発表したのである。
組合側の強硬姿勢を前に、スペイン航空連盟(ASETRA)はEulenとの契約を破棄して、スペイン治安機動隊に空港のセキュリティーの代行させるべきだという意見を表明するようになっていた。15年前までは空港のセキュリティー・チェックは治安機動隊が行っていたことから、彼らにとって初めての業務ではない。
因みに、2010年に航空管制官がストに入って、それが長期化した時、その影響が甚大だと判断した当時の政府は空軍が一時的に各空港の管制塔を指揮すように勅令を下したという前例がある。
8月3日のスペインの各紙は、スト実行委員会のヘノベバ・シエッラ委員長がストを行っている各担当の責任者に会社側との交渉の進み具合を電話で報告していたその会話の内容を一斉に記事にした。注目されるのは、その会話の中で、同委員長が「長蛇の列がないと、我々の負けだ。長蛇の列があれば我々の勝ちだ」と言っていたことが各紙に掲載されたのである。更に彼女は「報道メディア、乗客、AENAにとって関心を呼ぶのは長蛇の列だ。空港のその光景が(会社側との)交渉の為のプレッシャーになる」と言っていたこともその記事に加えられた。
報道メディアも今回のスト敢行が理不尽であると判断したようで、組合側の無謀さを批判する側についたようである。
遂に、8月11日、中央政府が早急な解決に向けて乗り出した。空港の安全運営に関係する全ての管轄の各代表を集め会合を持った。そこで決まったことは、治安機動隊が空港のセキュリティー・チェックに加わるということになった。政府は組合側と経営者側の交渉の合意は容易ではないと見たことと、14日からは組合側は24時間の全ストに入ると予告しているからである。
治安機動隊が加わるということは、Eulenがエル・プラッツ空港での契約が切れた時点で契約の更新の可能性はないということを意味することになるであろう。350人の空港警備の雇用が無くなることを意味するのである。失業率の高いスペインにおいて、今回の組合側の交渉担当者の警備員を説得しようとする姿勢に欠けていることと、AENAとの契約が切れた時点で350人の雇用が一挙に失われることになるという甚大さを理解していないようだ。