大分県由布市湯布院町の湯平温泉をご存じだろうか。「湯布院町」と言っても、あの「ゆふいん」ではない。「湯平温泉」は、湯布院町のなかにあるが、中心部から離れた小さな温泉地になる。湯平温泉にある、「山城屋」が今回の記事の舞台になる。
創業50年、部屋は9室の旅館だ。しかし「山城屋」は世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の「日本の旅館部門 2017」で満足度全国3位、「外国人に人気の旅館2016」で10位にランクインしている人気のある旅館として知られている。
旅館業を存続させるには何をすべきか
厚労省によれば、旅館営業施設数は41,899施設(平成27年3月末)となっている。そのなかでも地方の小規模旅館が危機にさらされている。施設の老朽化、人材不足の影響は大きく、今後10年間で3万施設を切ると予想されている。今回は、「山城屋」代表、二宮謙児/氏(以下、二宮氏)のコメントを中心に紹介したい。
「当館のある湯平温泉でも、旅館の数は最盛期の1/3にまで減少しました。周囲には空き旅館が目立ち、景観上も決して好ましいとはいえませんが、このような温泉地は、日本全国では山ほどあると思います。一方、政府は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの年には訪日外国人を4000万人にする目標を掲げています。」(二宮氏)
「国を挙げて『観光立国』をめざしているなか、肝心な宿泊施設の不足が懸念されている状況です。目標と現実が乖離しているからです。この状況を打破するためにも、私たちのような『小規模旅館』の早急な意識改革が求められています。」(同)
いずれにせよ、旅館は稼働率を高めなければ経営状況がひっ迫する。稼働率を高めるためには、国内外を問わず、すべてのお客さまを積極的に受け入れる仕組みづくりと、「安心」して宿泊できるノウハウの共有が必要になる。
「施設を豪華にしたり高級な料理を用意したりする必要はないのです Wi-Fi環境やクレジットカード対応など外国人対応として必要最小限の整備と、お客さまへの『安心感』の提供を心がけることで多くは解決できるはずです。その積み重ねが口コミで広より、将来のリピーターの確保につながれば稼働率は向上します。」(二宮氏)
「個々の旅館が実績を上げることで、地元の雇用確保や関連業者への波及効果があらわれることでしょう。地域そのものが活性化すれば、日本経済全体にも好影響を与えるものと考えています。」(同)
お客様は世界中にいるということ
「以前、当館をご利用になられた韓国のお客さまから、『メールで記事を書きました』という連絡をいただいたことがあります。両親と子供を連れて、6名で列車に乗って冬の湯平へ訪れたことがあったのですが、湯平駅から湯平温泉までは4キロ続く坂道を上らなければなりません。まだ、2月の寒い時期でした。」(二宮氏)
「温泉地は駅の近くにあるものだと思ったのでしょう。歩いて温泉場に向かっていました。そこにたまたま、車を運転していた当館の女将が通りかかったのです。」(同)
寒空の下、女将は「温泉場まで行かれるのでしたら乗っていきませんか?」と声を掛けた。すると、このような要望があったそうだ。
「家族で共同温泉に入りたいとのこと。共同温泉は男湯と女湯にかかれているので家族では入れません。そこで、当館までお連れしました。家族は当館をご利用になり、ロビーで談笑されたあと満足して帰りました。じつは、その様子を韓国のオンラインカフェに写真付きで投稿していたのです。」(二宮氏)
「その後、韓国の閲覧者からたくさんのコメントが寄せられました。非常に好意的なコメントも多く、結果的に当館の情報をたくさんの方に拡散する機会となりました。」(同)
論より証拠、『旅館 山城屋のHP』をご覧いただきたい。土日祝はかなり先まで予約できないことが確認できる。創業50年、衰退した温泉地にある小規模旅館。部屋は9室で決して豪華とは言えない。しかし与えられた要件をプラスに転じる発想と行動力は秀逸だ。従来の手法に固執せずに外国人利用客を吸引するノウハウには一見の価値がある。
参考書籍
『山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由』(あさ出版)
なお、新刊『007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』は、「007ジェームズ・ボンド」が社内の理不尽に立ち向かう想定で書き起こしたマネジメント本になる。社内の理不尽に対してどのように立ち向かい対応するのか、映画シーンなどを引用しながら解説している。
尾藤克之
コラムニスト
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