【映画評】ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦

第2次世界大戦下の1942年。ナチス高官でトップクラスの実力者ラインハルト・ハイドリヒは、ユダヤ人大量虐殺の実験を握り、その冷酷さから“金髪の野獣”と呼ばれていた。彼の暗殺を企てたイギリス政府とチェコスロバキア亡命政府は、ヨゼフやヤンら、暗殺部隊をチェコ領内に潜入させる。プラハの反ナチス組織や現地のレジスタンスと協力し、無謀ともいえる暗殺は実行されるが、ハイドリヒ暗殺に激怒したナチスは、壮絶で残虐な報復に乗り出した…。

ラインハルト・ハイドリヒ暗殺作戦とそのてん末を史実に基づいて描くサスペンス「ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦」。ナチスが欧州のほぼ全土を占領していた中、実行されたナチス高官ハイドリヒの暗殺は、エンスラポイド作戦の名で知られ、映画では「死刑執行人もまた死す」「暁の7人」の題材となったことで知られる。ナチスに立ち向かった若きエージェントやチェコスロバキア国内のレジスタンスのメンバーが命懸けで決行したミッションは、確かに英雄的な行為なのだが、その代償はあまりに大きかった。複数の村を完全に破壊し、立てこもった教会では激しい銃撃戦を行うなど、虐殺行為は常軌を逸するほどすさまじい。ハイドリヒ暗殺のせいで国内で多くの市民が犠牲になったのもまた事実なのだ。

映画は、雪深いプラハの森の寒々しい風景や、恐怖政治に怯える市民、ロンドンから送り込まれたエージェントたちと国内レジスタンスとの考え方や立場の違いなどを、緊張感あふれる演出で描いていく。結果は歴史が示しているので分かっているとはいえ、あまりの理不尽と残酷さに言葉を失ってしまった。ハイドリヒ暗殺はチェコ(スロバキア)史上、最も悲劇的な抵抗運動で、映画はその全貌を、冷酷なほど克明に描き切った。監督は英国人のショーン・エリス。「フローズン・タイム」や「ブロークン」など、おしゃれでスタイリッシュな作風が印象的な、ファッションフォトグラファー出身の監督だが、本作では民族の誇りと愛国心には、時に、多大な犠牲を必要とするという容赦ない歴史の真実を突きつけて、新境地を開いている。
【65点】
(原題「ANTHROPOID」)
(チェコ・英・仏/ショーン・エリス監督/キリアン・マーフィ、ジェイミー・ドーナン、シャルロット・ルボン、他)
(理不尽度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月24日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式サイトから引用)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。