【映画評】エル ELLE

渡 まち子

ゲーム会社の社長ミシェルは、一人暮らしの自宅にいたところ、覆面を被った男に襲われレイプされる。その後も不審な出来事が続くが、ミシェルは、父親に関係する過去の衝撃的な事件から、警察に関わることを避け、自分で犯人を捜し始める。だが次第に明かされていくのは、事件の真相よりもミシェル自身の驚くべき本性だった…。

レイプ被害者の中年女性が犯人を探し出す過程で、その複雑で恐るべき本性を露わにしていく官能サスペンス「エル ELLE」。原作は「ベティ・ブルー 愛と激情の日々」の作者として知られるフィリップ・ディジャンの小説だ。フランスの名女優イザベル・ユペールは、挑戦的な役柄を演じて評価が高いが、本作もまたしかり。主人公ミシェルは、ちょっとキワどい内容のゲームを作る会社のワンマン女社長で、幼い頃のトラウマとその後の生い立ちの影響で、かなり屈折した性格だ。周囲は敵だらけの強い女性。そのくせ、職場の若手男性社員や秘密の愛人、美形の隣人まで男たちを魅了する熟女。さらには、女性の親友もいてご近所付き合いもそつなくこなす。そんなヒロインをユペールが圧巻の迫力と威厳、知性とユーモアで美しく演じて素晴らしい。

バイオレンスとエロティシズムが持ち味のポール・ヴァーホーヴェン監督が、恐いもの知らずのイザベル・ユペールと組んだのは、必然だったのだろうか。ハリウッドのほとんどの女優がこの役を断ったという逸話の真偽はさておき、高尚なハネケ作品も下世話なヴァーホーヴェン作品も、ユペールは、洗練された美しい変態映画として昇華させてしまう。本作のヒロインに感情移入するのは難しいが、イザベル・ユペールの非凡な才能なしには成立しない逸品なのは確かだ。年齢を重ねるごとに魅力が増すフランスの大女優に脱帽である。
【70点】
(原題「ELLE」)
(フランス/ポール・ヴァーホーヴェン監督/イザベル・ユペール、ローラン・ラフィット、アンヌ・コンシニ、他)
(アブノーマル度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月26日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。