【映画評】きみの声をとどけたい

海辺の町、日ノ坂町に暮らす16歳のなぎさは、将来の夢がみつからず、少し焦っている。ある時、何年も使われていない喫茶店アクアマリンに迷い込み、その一角にあるミニFMステーションを見つけたなぎさは、ちょっとした出来心からラジオDJの真似事をする。偶然にも放送されたなぎさの言葉は、思いもかけない人たちに届いていた。このことをきっかけになぎさの周囲には様々な思いを抱える人々が集まってくる。声や言葉の力を信じてFM放送に夢中になるなぎさだったが、ある日、アクアマリンが取り壊されてしまうことを知る…。

言葉に宿る力を信じる女子高校生の青春を描くアニメーション「きみの声をとどけたい」。主人公のなぎさは、幼い頃に祖母から聞かされた“言霊(コトダマ)”の話を今も信じている。願い続ければきっと叶う。悪いことばかり口にしていると、それが現実となって自分に返ってきてしまう。そう考えているなぎさは、実際に言霊を見たことがある、少し夢見がちな女子高生だ。登場する少女たちは、将来への不安、母親の重い病気、友人へのライバル心や部活内の軋轢など、さまざまな悩みを抱えている。そんな思春期の彼女たちをやんわりとした絆でつなぐのが、ミニFMステーションのラジオアクアマリンなのだ。SNSやYouTubeの世代には、ミニFMという存在は、懐かしさよりも新しさを感じさせたのかもしれない。

本作は、なぎさを中心にした少女たちの成長物語だが、登場人物が多すぎて散漫になってしまったのが気になった。ラクロス部で気が強い性格のかえでと、地元の名家のお嬢様・夕のライバル関係があるかと思えば、喫茶店の取り壊し問題もある。ラジオ好きのあやめや音楽が得意の乙葉などが次々に加わっていく展開は、完全に焦点がぼやけてしまっている。メインキャラ7人という大所帯は、新世代の声優を発掘するオーディションとも関係しているのだろうか。なぎさと、アクアマリンと深い関わりを持つ少女・紫音に絞れば、より深く、声や言葉の力を掘り下げられたはずだ。ただ、クライマックスに訪れる“奇跡”は間違いなく少女たち全員のパワーで呼び寄せたもの。こうあってほしいと強く願うなぎさたちの気持ちは、観客の願いと重なっていく。マッドハウスによる、親しみのある絵柄とさわやかな色彩、丁寧に描かれた湘南の町の美しい風景など、ビジュアル面の好感度が作品をあたたかいものにしている。
【60点】
(原題「きみの声をとどけたい」)
(日本/伊藤尚往監督/(声)野美紗子、岩淵桃音、片平美那、他)
(爽やか度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年8月27日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。