欧州のイスラム過激派テロ事件をフォローしていて不思議に感じてきた点は、治安関係者からマークされているイスラム過激主義者が自由に行動し、他国でテロを実行する、といったケースが案外多いことだ。
スペイン東部バルセロナのテロ事件でもテロ実行犯グループの指導者と見なされ、爆弾製造の段階で爆死した元イマーム、アブデルバキ・エスサティ容疑者もその一人だ。彼は欧米治安関係者からマークされてきたが、自由に動き回り、イスラム青年たちをオルグし、蛮行に走らせた。
その点について、欧州連合(EU)テロ対策主席調査官、ベルギー人のジル・デ・ケルコブ氏(Gilles de Kerchov)はオーストリア日刊紙プレッセ(8月30日付)とのインタビューの中で、「欧米情報機関の情報共有は既に機能している。テロ問題に関する情報交換はシェンゲン情報システムや欧州刑事警察機関(ユーロポール)などを通じ自由に実施されている。問題は、何を過激主義と呼ぶか、どの段階でイスラム教徒の過激化といえるか、などで、その定義が微妙に異なることだ」と説明する。
「定義問題」は国連問題をフォローしていると度々直面する厄介な問題だ。例えば、何を「テロ」とするか、「人権」とは何かなどといった問題では必ず定義問題が出てくる。例えば、パレスチナ人のイスラエルへの攻撃を「テロ」とするか、それとも「民族解放運動」とするかでは全く異なる。南アフリカの英雄ネルソン・マンデラも長い間、テロリストとして拘束されてきたし、パレスチナ民族解放機構のヤーセル・アラファート議長も同様だった。
国連関係者は「定義は加盟国の数ほどある」という。これではテロ対策といっても具体的な対応が難しくなるのは当然の帰結かもしれない。
ケルコブ調査官によると、英国情報局保安部(MI5)は、英国内に2万人から2万5000人のイスラム過激派がいると考えている。そのうち3000人は非常に危険な過激派で、そのうち500人は24時間、監視しなければならない危険人物と見ている。問題は、その過激度の分類条件が加盟国では同一ではないということだ。
そして「弱いシグナルをキャッチし、分析する能力が警察官、テロ担当官に求められる。弱いシグナルとは、イスラム教徒の若者が学校を突然退学したとか、モスクを訪問する回数が増え、女性に対して攻撃的になってきた等のわずかな変化をキャッチし、それを分析する能力が求められる」というのだ。
イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)は今日、シリア、イラクの拠点を失ってきた。そのため、「ISは今後、欧州でテロ活動を強化するのではないか」という予測が流れてきている。それに対し、ケルコブ調査官は「ISは今後も存続し続けるだろう。ISはカリフ国の建設を宣言してきたが、これからは領土なき、理念だけの仮想カリフ国の建設を叫ぶことになるだろう」と見ている。
その上で、「ISの残党が国際テロ組織『アルカイダ』と合流する可能性も考えられるが、ISや『アルカイダ』の指導者たちはエゴが強く、結束は難しいだろう。ISの指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーは殺害されたし、『アルカイダ』のアイマン・ムハンメド・ラビ・アル・ザワヒリは既に66歳だ。プロパガンダでは今後、故ウサマ・ビンラディンの息子、ハムザ・ビンラディンが中心的な役割を果たすだろう。彼は将来、新しい指導者(Emir)になるかもしれない」と予想している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年9月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。