「マジ文章書けないんだけど!」と思ったら読みたい本

写真はイメージを伝えるために書籍より引用。

「師匠との出会いは、そんな落胆と驚きと声にならない悲鳴からだったの」。本書はこのような出だしではじまる。今回は、『マジ文章書けないんだけど』(大和書房)を紹介したい。主人公の、浅嶋すず(大学生/画像右)と、謎のおじさん(文章の達人/画像左)によって、掛け合いが繰り広げられる。

著者は、朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長の前田安正/氏。まさに文章のプロである。35年間にわたる新聞校閲の知見が、わかりやすく盛り込まれている。プロが説明するわかりやすさとは“こういう事”なのかと驚きを禁じ得ない。読者は文章を書くことの面白さをあらためて実感することだろう。

「5W1H」で最も重要なのが「Why」

最初に次の文を読んでもらいたい。

--ここから--
私は大学で吹奏学をしていた。しかし、いまはもうやっていない。やめたわけではないのだが、トロンボーンはクローゼットにしまったままでほこりを被っているのではないか。なぜやめたわけではないのかというと社会人になってからする機会がなくなったからだ。だからやめたわけではないということなのだ。いつかまた始めたいと思っているが、社会人でやっている人がなかなかいない。未来のあなたはもう一度トロンボーンを吹くべきなのだ。
--ここまで--

この文の意味は通じただろうか、それとも何を言いたいのかわからないだろうか。この文には「状況」しか書かれていない。本書のなかでは、「5W1H」がケースとして紹介されているが、そのなかで最も重要なのが「Why」だとしている。理由は「なぜ」「どうして」という問いに答えるように書かないと読者がフラストレーションを感じるからだ。

この文の出だし、「私は大学で吹奏学をしていた。しかし、いまはもうやっていない」の部分は、「なぜ、大学で吹奏学をしていたのか」「なぜ、いまはもうやっていないのか」が不明瞭であり、対比して見ることができない。つまり、「冒頭部分から読者にフラストレーションを与えている」ことになる。

そのため「状況」に影響を与える「要因」が何なのかを書かなければいけない。例えば、「社会人になると仕事で忙しいのでトロンボーンを吹く時間が無くなる」というのも理由になる。次に、「トロンボーンを吹く時間が無くなる」ことを意識して構成してみる必要がある。では次ぎに、実際の肉付けをするためのケースを紹介したい。

文の肉付けも最初は一行から

次の例文を読んでもらいたい。

<例文>
「昨日、私たちは新宿のホテルでスイーツバイキングを楽しみました」

いつ = 昨日
どこで = 新宿のホテルで
誰が = 私たちは
何を = スイーツバイキングを
どうした = 楽しみました

この文には「Why」がない状態である。全体の流れのなかで「スイーツバイキングを楽しんだこと」に主眼が置かれていることがわかる。肉付けしてくには「なぜ行ったのか」の理由付けが必要になる。(1)ように加筆することで、「動機が明確になる」ことがわかる。さらに、(2)は「なぜ楽しめたか」の理由を加筆したものになる。

加筆(1)
「昨日、友人のビクトリアに誘われて、私たちは新宿のホテルでスイーツバイキングを楽しみました」

加筆(2)
「昨日、友人のビクトリアに誘われて、私たちは新宿のホテルでスイーツバイキングを楽しみました。バイキング会場には50種類以上のスイーツが並んでいました。私はイチゴのショートケーキとシュークリームに目がないので、お皿に取って、飲み物もそこそこに口に運びます。ビクトリアは、かぼちゃのパウンドケーキをほおばっています」

ポイントは「ライブ感」になる。(2)は会場での出来事が現在形で書かれている。過去の話でも現在形にすることでリアリティが増す。美味しそうに食べている様子がうまく描写できていることが理解できるだろう。(3)には、どんな味だったのか、どれくらい食べたのかまで加筆している。これによってさらにイメージが増幅される。

加筆(3)
「昨日、友人のビクトリアに誘われて、私たちは新宿のホテルでスイーツバイキングを楽しみました。バイキング会場には50種類以上のスイーツが並んでいました。私はイチゴのショートケーキとシュークリームに目がないので、お皿に取って、飲み物もそこそこに口に運びます。ビクトリアは、かぼちゃのパウンドケーキをほおばっています。

ショートケーキはイチゴの王様『AMA-WOW』を使った限定品でした。形はどっしりとした大玉です。噛むとジュワーっとイチゴ本来の甘さが口の中にひろがります。シュークリームの中身は特製生クリームでした。口の中で、ふわーっと雪のように溶けます。この不思議な食感の生クリームとカリカリのシュー生地の相性は抜群です」

実は文章作成は難しくない

このようにイマジネーションを膨らませて加筆するだけで文に動きが出てくる。しかし気がついただろうか。元は「たったひとつの文」であることを。これに、「Why」の要素を入れるだけで長い文が完成する。このような加筆なら比較的簡単ではないか。文章力を向上させて豊かな人生を切り開くためにも、多くの人に手にとってもらいたい。

さて、話は変わるが、実は約3年半ぶりに出版をした。タイトルは『007(ダブルオーセブン)に学ぶ仕事術』で、私にとっては9冊目の本になる。アゴラでは、「ビジネス著者養成セミナー」という著者希望者のためのセミナーを隔月で、「出版道場」という出版希望者のニーズに応えるための実践講座を年2回開催している。

私は、著者や出版社から献本されたなかで、ニュースとして相応しいものを紹介記事として掲載している。今回はそうしたなかで、記事が編集者の目に留まり出版にいたった。読者の皆さまへ感謝としてご報告を申し上げたい。

参考書籍
マジ文章書けないんだけど』(大和書房)

尾藤克之
コラムニスト

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