日本のイチゴが韓国流出、腹は立つけど実は損失は出ていない

黒坂 岳央

こんにちは!肥後庵の黒坂です。

9月1日の東京新聞に衝撃的な記事が載っていました。それは「日本のイチゴ品種が韓国に流出した」というものです。

私たち日本人としては「日本のイチゴ品種で韓国が稼いでいる」と聞くと感情的にはムカムカしてしまいますよね?実際、ネットでは結構韓国叩きの発言が見られます。しかし、ムカムカする感情を抑え、冷静に考えると記事の中にある「5年間で220億円損失」という農林水産省の試算については疑問を感じます。今回は記事の引用をしながらお話をしていきますね!

引用元:イチゴ品種流出 損失220億円 とちおとめなど韓国で無断栽培(東京新聞)

日本のフルーツは世界一の品質

まず、はじめに確認したいことは、「日本のフルーツは間違いなく品質は世界最高峰」ということです。日本の高品質フルーツはガラパゴス化になっていて、言うなれば「ガラパゴスフルーツ」です。果物に限らず、世界で他の国にはない日本のビジネスや文化は「ガラパゴス」と揶揄されていますよね?今は皆スマホでiPhoneかアンドロイドですが、10年くらい前まで携帯はスマホじゃなくてガラケーが主流で色んなメーカーの携帯がありました。「日本の商品はグローバルスタンダードじゃない」「日本独自では世界においていかれる」などと言われてきましたが、私は別にガラパゴス化は悪いと全然思わないんですよね。日本の文化に根ざしたものを、日本人だけで楽しんでいて何が悪いんでしょうか?

今から10数年ほど前に私の弟がアメリカ旅行へ行きました。その時に流行っていたガラケーは「メガピクセルカメラ搭載!」がキャッチコピーになっていたシャープの携帯です。レストラン料理を撮影しているとお店のウェイターがその携帯で撮影した写真を見て、その高画質さにびっくり仰天!弟が持っていた携帯を厨房に持っていき、料理をしていたスタッフとともに大騒ぎをしていたそうです(笑)。「Japanese technology is very high!!」とコメントをもらい、記念撮影を撮ってきていました。その話を聞いて私は日本人として鼻が高かったと感じたことを覚えています。

日本のフルーツも同じです。海外から見ると完全にガラパゴスじゃないですか。「値段が高すぎる!」「味がおいしすぎるよ!」「外観も美しい…」「安心安全だからいいね!」などと色んな意見がありますが、概ねポジティブに受け入れられています。過去に書いた記事で紹介をさせてもらいましたが、香港では日本のイチゴが一粒2,400円で飛ぶように売れています(過去記事参照)。

韓国に日本のイチゴ品種が流出して220億の損害

そんな日本のイチゴ品種が「韓国に流出した!」というのが今回のニュースです。まあ心情としては「腹立たしさを感じる」というのが正直な感想ですね!農家の人たちが一生懸命、試行錯誤しておいしいイチゴ品種を開発して多くの人に喜ばれたものがそのまま韓国に流れて、韓国はそれを他国に販売して稼いでいるというのですから。

肥後庵でもイチゴは超人気商品で、お歳暮ではガンガン売れて多くのお客さまに喜ばれています。熊本県産のイチゴには「ひのしずく」など他県にはない独自品種が多くあり、お客さまの中には「あまおうより好きな味」「とちおとめが買えなかったからここに来た」という方もいるので嬉しく思っています。

さて、そんな皆が大好きなイチゴですが、今回の記事によると「韓国のイチゴ≒日本のイチゴ」となっているようです。

農水省によると、韓国では、県が開発した「とちおとめ」や個人開発の「章姫」「レッドパール」などを勝手に交配したイチゴが全栽培面積の九割以上を占め、アジア諸国への輸出も活発だ。

ということで、日本の品種を使ってブランドいちごを作り、他国に輸出しているようです。9割が元々日本の品種ということであれば、実質日本のイチゴを使って他国に輸出しているようなものなので、感情的には「人が一生懸命作ったものをパクって稼いでいる」という感覚がしてしまいますのもムリはありません。農林水産省が被害総額を算定した結果、次のような金額が出てきました。

日本からのイチゴ輸出は直近で年五百トン程度なのに対し、一五年の韓国からのイチゴ輸出は四千トンに上る。損失推計はこれを目安に、韓国産が全て日本産に置き換わった場合を想定した。

そして、220億円という被害額は、5年間で輸出機会を奪われた総額だということです。あなたもこれを見てますます腹立たしさが出てきましたか?まあそう思うのはあなたが日本のフルーツに誇りを持っている何よりの証拠で、それ自体は至極当たり前のことだと思います。

農林水産省の試算は本当に正しいか?

で、ですね。ここからが私の言いたかったことなんですが、私はこう思うんですよ。「例え、イチゴ品種が韓国に流出しなかったとしても、日本は220億円も輸出で稼げなかったのでは?」と。

というのも日本は果物輸出額は世界ランキングはかなり下の方なんですよね。この表を見てください。

画像引用元:株式会社ウェッジ「高品質の日本の農産物が海外で売れない理由」より

アメリカは圧倒的ですが、注目するべきはオランダです。オランダという国は日本の九州くらいの面積しかないのに、なんと2位につけています。反面、日本は21位とまったく振るいません。最近でこそ少しずつ輸出額は増えてきていますが、それでもフルーツ輸出額では他国に大きく差をつけられています。今回のイチゴが韓国に流出していなくても、この5年で220億円のイチゴが輸出出来たとは思えません。

むしろ、こうした事件を契機にフルーツ輸出に本気で取り組まなければ!という意識付けになったとプラスに考えるのはどうでしょうか?少なくとも私はそう思いましたね。韓国が日本由来の品種で他国で稼げているなら、日本で同じことを本気でやれば受け入れられることを示しているわけですから、私は逆にこの記事を読んで日本のフルーツの品質が海外に受け入れられると自信を持ちましたよ!

ジャパンブランド全押しでやればパクられても無問題

日本のフルーツ輸出額はまだまだ規模が小さいですが、これから本気でブランディングしていけば大化けすると思っています。これまで成果が出ていなかったのは日本国内で十分大きなマーケットがあり、海外輸出に本気を出している業者が少ないからでしょう。

先ほどいったように香港では1粒2,400円でイチゴがガンガン売れているんですよ?現地の香港人は「安心安全でおいしいから日本のフルーツを買う」といっています。韓国が横から売ろうとしても、日本のイチゴを指名買いしたい彼らは韓国イチゴは買わないと思うんですよ。私はパクられても問題ないくらいに、世界の中でジャパンブランドを押し出せばいいと思っています。「フルーツは日本製品じゃないと買わない!」と言わせるくらいにマーケティングしたら問題ないと思いますね!

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。