【映画評】パターソン

ニュージャージー州パターソン。街と同じ名前のバスの運転手、パターソンは、毎日を規則正しいリズムで暮らしていた。早朝、隣で眠っている妻ローラにキスをし、朝食を食べて出勤、業務をこなして帰宅する。妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。馴染みのバーに立ち寄り一杯だけ飲んで帰宅した後は、妻の横で眠りにつく。そんな変わり映えのしない日々の中、パターソンは秘密のノートに、心に浮かぶ詩を書き留めていく…。

バスの運転手で詩人である主人公の一週間を淡々としたタッチで描く「パターソン」。市井の人々の、平凡な日常を丁寧に描く作風は、NYインディーズ映画の雄と呼ばれるジム・ジャームッシュ監督の初期の作品群にとてもよく似ている。バスの運転手のパターソンが作る詩は、どれも身の回りの物事を描写する静かな作品ばかりだ。映画で描かれる1週間には、内向的なパターソンの心を少しだけざわつかせる“事件”が起こったりはするが、外交的で活発な妻ローラのあたたかい励ましもあり、パターソンは詩作に励むことができる。バスの窓から見える風景や車内の乗客のとりとめのない会話、無邪気な狂気を感じさせるローラへの変わらぬ愛。そんな日常に目を凝らし、耳を澄ますパターソンは、毎日は1日として同じ日はないことを知っている。そのことがワーキングクラスの彼をアーティストにしているのだ。

繰り返し登場する双子、バーの常連客の痴話喧嘩、ローラのモノトーンへのこだわりなど、どうでもいいけれど愛おしいディテールは、日常からインスピレーションを得るパターソンの詩の得がたい味わいの糧なのだろう。ハリウッド大作からインディーズ作品まで神出鬼没のアダム・ドライバーの独特のたたずまいが素晴らしい。終盤に登場する日本の詩人役の永瀬正敏の存在感もまた印象的だ。この穏やかな映画は、平凡な日常の美しさと奥深さをつかめたなら、人生はきっと豊かなものになると教えてくれる。イングリッシュ・ブルドッグの名演と、まったりと流れる音楽が隠れた魅力だ。
【70点】
(原題「PATERSON」)
(アメリカ/ジム・ジャームッシュ監督/アダム・ドライヴァー、ゴルシフテ・ファラハニ、永瀬正敏、他)
(原点回帰度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月7日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Twitterから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。