以前に在籍していた会社には次のような風習があった。毎週、全社員参加の売上げ報告会がおこなわれる。発表者は必ず最後に、「このような素晴らしい成績を上げられたのも、K部長の素晴らしいアドバイスがあったからでございます。今週も引き続きご指導・ご鞭撻の程よろしくお願い致します」とヨイショする。
未達成であれば、「先週はふがいない報告しかできず申し訳ございません。K部長の洞察力を生かすことができなかった、私の不手際です。今週は先週の1.5倍の行動量の必達を掲げていますので何とぞご容赦くださいますようお願い申し上げます」とまたヨイショする。逆に、このようなおもねりを発しないと容赦がなかった。
上司のヨイショは部下の必須要件
ある日の会議で、報告をしている時のことだ。「先週の訪問により、X社からの正式な受注が決まり、今週から作業に入ります。主な内容としては、まずは国内工場での業務改善点を洗い出し、それと並行して、引き続き、現地での半導体市場の動向を見極めるため、以前から付き合いのあるリサーチ会社・・・」。
「ちょっと待て!」。K部長から横やりが入った。「そのリサーチ会社はなんだ?信頼できるのか」。「私が入社1年目から付き合いがあり、資料にも記載しています」。「ハァ?お前が1年目から付き合いがあるとか関係ねえし」「資料を読み込み暗記しろというのか。アホか?」。周囲では「そうだ、そうだ!」と米つきバッタが騒ぎ出す。
「ですが、K部長は〝全面的に君に任せた〟と」。しかしK部長は顔をいまいましそうにゆがめ、「最近、君の悪い評判を聞くよ」「次の会議で君の査問をおこなうことを上層部に提案するよ」と発し、席を一方的に立つ。取りつくしまもない。司会役の社員が「会議は終了」と高らかに宣言し、その場はお開きとなった。
このような話はよくある。部下が功績を上げるのを見届けたあと忠誠心を確認する。そして、「自分を奉らない部下は決して昇進させない」という上司は少なくない。部下は「上司は手柄をとった」と騒ぎ立てるが、そうなったら最後、人事権を行使されて地方の僻地に飛ばされて終わりだろう。上司のヨイショは必須要件なのだ。
根回しで味方をつくっておくこと
ピアース・ブロスナン(画像参照)が、ジェームズ・ボンド役を演じた作品「007ゴールデンアイ」は派手なアクションに特徴がある。前作、「007 消されたライセンス」の公開は、ベルリンの壁崩壊前であり冷戦の要素が反映されていたが、興行は過去最低に終わる。前作から6年を経てボンドの交代と内容変更は規定路線だった。
これは007シリーズの大きな転換期となった作品と言われている。前回の転換は「007リビング・デイライツ」だが、ティモシー・ダルトンの2作品は興行的にはかなり不調で人気も下降線をたどりシリーズ終了とまで言わしめた。ピアース・ブロスナン以降、人気は復活しいずれもヒットを記録している。ボンドの所属はMI6本部となる。
当初、「007リビング・デイライツ」には、ピアース・ブロスナンも有力候補とされていた。しかし見送られる。その後、ティモシー・ダルトンの2作品が不調に終わり、シリーズ人気にも陰りが見られていたため、ピアース・ブロスナンの登場は難しいと思われていた。しかし現場でのハードネゴシエーションが功を奏する。
ネゴシエーションは日本的にいえば根回しになる。優秀なビジネスパーソンには根回しや用意が周到な人が多いと思い。日露戦争の時に伊藤博文が、アメリカのルーズベルトのもとに同級生を向かわせて、アメリカに講和の仲介をしてもらえるように「根回し」をさせた話は有名である。国際紛争の場においても根回しは効果的だ。
根回しは必要コストである
根回しに掛かる手間や労力は必要コストと考えなくてはいけない。会議という公式の場で知らないことをいきなり話されても、突然のことで相手もすぐに判断できず、了承してもらえないことがある。会議の参加者はキーマンの意見を重視する。だから事前にキーマンに対してお伺いをたてることも重要になる。
今回のケースであれば、K部長にお伺いをたてることは必要コストと考えなくてはいけなかった。また、根回しは外部への提案などの際にも有効だ。提案する内容を、会議に出席する人にあらかじめ話をして賛成票を集めておけば良い。事前に根回しをすれば、提案自体をこちら主導で進めることができる。
公平性を期すためにそのような話を聞かないというケースもあるが、日本の社会で、完全にオープンなものなど存在しない。もし根回しを拒否されたとしたら、それはかなり分が悪い提案だと思ったほうが良いだろう。根回しをすれば、事前にシナリオが決まることも少なくない。事前に流れに乗せてしまえば勝負は既に決まっている。
参考書籍
『007に学ぶ仕事術』(同友館)
尾藤克之
コラムニスト
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