夏休みを終え中国に戻ったら、著名動画サイトでネット専用に制作された刑事ドラマ2作のPKが話題になっていた。二つの作品は動画サイト・優酷(Youku)の『白夜追凶』と動画サイト・愛奇芸(Iqiyi)の『無証之罪』。試しに何本かを見たが、実に面白い。私は根っからの刑事ドラマ好きで、多くの作品を見てきたが、かなりレベルが高い。中国ではここ数年、ネットドラマの人気が急上昇し、テレビドラマをしのぐ勢いで伸びている。
ネットドラマは毎回、放映後しばらくは有料会員のみの閲覧だが、一定期間後は無料で開放される仕組みだ。テレビドラマと同様に広告が入るが、メーンのスポンサー広告にはドラマの出演者が登場し、ドラマのストーリーに沿った演出がされるケースもある。よりPR効果を高めようという意図がある。まだ若い市場のせいなのか、編集の自由度が高い。ネットにおけるメディア間競争、広告商戦は激化している。中国のネット規制しか報じない日本では、完全に見落とされている実態だ。
『白夜追凶』は8月30日にスタートし、計32回のうちすでに20回が放映された。これまでのアクセスは9億80008万回を超えた。俳優の潘粤明が一人二役で、一卵性双生児の兄弟を演じる。兄は敏腕刑事だが、弟は不良で、凶悪殺人犯として指名手配を受けるという設定だ。弟は冤罪を訴え、兄はそれを信じ、無罪を晴らすために兄弟で奔走する。
弟が指名手配されたため、兄は捜査の任務から解かれるが、同僚が彼の能力を頼って顧問として様々な難事件の処理に協力を求める。だが、兄は過去の事件がきっかけで暗所恐怖症にかかっており、夜は弟が兄の身代わりとして捜査に参加する。瓜二つなので、だれも見分けがつかない。鑑識担当の幹部が、証拠を一切残さない連続猟奇殺人の犯人として浮上するなど、相次ぐ怪事件の中で、徐々に、弟を陥れた組織の背景が浮き彫りになっていく。
やがてその男性は長年、警察で遺体の検視をしてきた元法医学者であることが判明する。だが実は、当地で相次ぐ連続猟奇殺人事件の犯人でもある。必ず殺害現場に雪だるま「雪人」や、特徴あるたばこ、子どもが遊びに使う動物の骨などを残す。実はあの夜も、二人が殺してしまった男を彼が「雪人」として殺そうと思い、現場に居合わせたのだ。犯罪の背景には、元法医学者の妻と娘が突然失踪した過去の不幸な未解決事件が横たわっている。深い真相の闇に、若い二人や刑事、地元のやくざ者たちが巻き込まれていく。
共通しているのは、人間の赤裸々な心を直視し、あからさまに描いて見せていることだ。立場、関係、人情、欲望、エゴ、そういったものがグツグツ沸騰する鍋に放り込まれている。法と正義は絵に描いたようには一致しない。事件という一線を越えた領域でしか垣間見ることのできない、人間の心の闇、人生の不条理がありのままに描かれている。
日本に一時帰国中、『刑事7人』や『愛してたって、秘密はある』など、何本かの事件ドラマを見続けたが、残念ながら期待外れだった。一話完結も、続きものも、メリハリがなく、人気俳優に頼ってだらだら引き延ばしているような作り方を感じた。視聴者の予想を越える奇想天外なエンディングに気を取られるあまり、リアリティのない突飛な結末が目立ち、心に訴えてくるものがない。つまり人生や生活、人間が描かれていない。
たかがドラマ、されど・・・である。日本でも優れたネット作品が出てきてもいいのではないか。中国では松本清張以来、現代の東野圭吾に至るまで、日本の推理作品に対する人気が非常に高い。日本でヒットすれば、すぐに中国語の字幕がつけられ、中国でも幅広く流行する。それがシェアリングを原則とするインターネット時代だ。開かれたルールを先取りしたビジネスモデルを考えてよい。
編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。