【映画評】ナミヤ雑貨店の奇蹟

渡 まち子

提供:松竹

2012年。少年時代を養護施設で過ごした敦也、翔太、幸平の幼馴染3人は、ある理由から悪事を働き、逃げる途中に廃屋のナミヤ雑貨店に身を隠す。そこは、かつて悩み相談を請け負っていて、郵便受けに投げ込まれた手紙に店主が真剣に答えてくれることで知られていた。すでに店は廃屋になっているが、その晩、敦也らは店に32年前に書かれた手紙が届けられたことに気付く。その郵便受けは1980年につながっていたのだ。3人は戸惑いながらも、当時の店主・浪矢雄治に代わって返事を書きはじめる。やがて手紙のやりとりから雑貨店と3人との意外な共通点が見えてくる…。

現在と過去が手紙を通してつながっていく時空を超えたファンタジー「ナミヤ雑貨店の奇蹟」。原作は、人気ミステリー作家・東野圭吾の小説だ。不思議な郵便受けに投函される手紙を通して現在と過去がつながるファンタジーというと、ハリウッドでもリメイクされた韓国映画のラブストーリー「イルマーレ」がすぐに思い浮かぶが、本作は恋愛要素はほとんどなく、複数のエピソードによって過去と現在が次々につながる、人間ドラマだ。ミュージシャン志望の青年、金持ちの愛人になろうとする若い女性らの悩みに答える形で、雑貨店店主と、敦也らを含む、施設の人々の人生が交錯する。やがて、それぞれが手紙に書かれた答えから自分の生き方を導き出した末に、あたたかい奇蹟が訪れる。

キーとなるのは、山下達郎の主題歌「REBORN」。この歌の歌詞が映画のストーリーとメッセージに絶妙にフィットした演出が上手い。大分県豊後高田市でロケした、昭和の香りの街並もノスタルジックだ。虚実がミックスする物語は、無論、ご都合主義も多いのだが、廣木隆一監督の演出は概ね自然体だ。ただ人気アイドルの山田涼介の顔のアップがやたらと多いのは少々気になる。一方で、重要な役を演じる子役の鈴木梨央ちゃんの好演(名演と呼びたい)が光っていた。登場人物は、2012年も1980年も、共に人生の岐路で迷う人々だ。そんな彼らの背中をそっと押すのが店主役の名優・西田敏行。“白い手紙”という最高難易度の相談に店主がくれた答えが、すべての人々の希望に思えた。泣ける話というより、ほっこりする話として楽しんでほしい。
【60点】
(原題「ナミヤ雑貨店の奇蹟」)
(日本/廣木隆一監督/山田涼介、西田敏行、尾野真千子、他)
(泣ける度:★★☆☆☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。